・研究代表者 弘前大学人文学部 田中重好
・所内担当者 林 春男
・研究期間 平成9年4月1日〜平成10年2月28日
・研究場所 弘前大学・京都大学防災研究所
・参加者数 3名
本研究は、1995年に生じた阪神・淡路大震災を、災害に直面した当事者の体験を重 ね合わせることから検討する「災害体験」アプローチによる研究である。本研究では 次の二つの方法を併用した。 (1) 「災害体験集」の研究 本研究では、第一に、災害後に発行された「災害体験集 」を系統的に分析することで、被災体験の全体像を明らかにするという方法をとった 。具体的には、^「神戸大学震災文庫」が提供しているデータベース、_21世紀ひょ うご創造協会編「阪神・淡路大震災関連収集資料目録」、`兵庫県立図書館郷土資料 室の資料目録を利用し、体験集の全体像を捉えた。これらの体験集を、主体、執筆時 期により区分し、「阪神・淡路大震災体験集リスト」を作成、成人と生徒による体験 集に分けて分析した。それぞれ性別、年齢別、体験の種類別に分類・分析し、共通す る体験と時間の経過と共に分化する体験をおった。 (2) 「新聞への投書」研究 第二に、被災地神戸の地元紙・神戸新聞の発災後約1年 間の阪神大震災関連の投書の分析を行なった。「発言欄」1995年2月2日から1996年1 月31日までの間にこうした投書は861件を数える。これらを投書者のフェイス(性別 ・年齢・居住地、職業)、主張内容により区分、データベース化し分析を行なった。 両者の分析を通して、災害体験が長期間におよぶ、現実の状況と関連しながら変化し て行くものであることが明らかとなった。しかしながら、定量的な分析の対象となり にくい体験集のデータは分析が困難で、今後、ドキュメント・データ分析方法の開発 の必要がある。 こうした分析と平行して、西宮プロジェクト(研究代表京大防災研林春男教授)の インタビュー記録や地下鉄サリン事件記録をあわせて検討し、突発災害時の共同活動 の形成過程に関して検討した。一般に災害ユートピア論では発災直後被災者の間に共 通の感情が芽ばえ被災コミュニティが自然と現れてくるといわれているが、両災害で は、認識レベルにおいてすら「被災者」という共通認識が現れていないケースが見ら れた。発災後の共同活動が生起するには、認識の共同、非日常的な行動コードへの変 換、状況定義の共有化、マスコミを含めた他者からの状況定義の修正あるいは追加と いう条件が必要である。