・研究課題名(番号) 水圏底層部に現れる無酸素状態の地球化学
                    ならびに水圏化学的研究  (9Gー11)

・研究代表者  京都大学大学院人間・環境学研究科   堀 智孝

・所内担当者  奥西一夫

・研究期間   平成9年4月1日科〜平成10年2月28日

・研究場所   京都大学大学院人間・環境学研究科

・参加者数   3名


<研 究 報 告>

(1)目的・趣旨
 水圏環境の富栄養化は、赤潮やアオシオ現象として目視されているが、このような目
視しうる現象と並行して、水域の深層部では沈積した有機物の分解が進行し無酸素状態と
呼ばれる極度の還元状態が生じる。本研究は琵琶湖の底層部の化学的観察を行い、無酸素
層に向う過程を電気化学的に考察し、加えて、水環境の将来予測と保全のための基礎を確
立することが目的である。仮に無酸素層が出現すると、この時期をもって湖の特性は不連
続的に変化するのである。

(2)研究経過の概要
 琵琶湖に次のように観測点を配した。北湖と南湖を代表する点としてそれぞれIe-1と
Nb-5を、この両者を湖の中心線に沿って北から南に結ぶ点としてKc-3、Lc-4、Lc-3、Mb-3
を、南湖の東西両岸を代表する点としてNb-2とNa-3を、そして最も富栄養化の激しい点と
して、赤の井湾内にAkanoiを置いた。特に、Ie-1では、表層から底層に向かって深度を変
え(0、1、5、10、15、20、30、40、50、60、70、73m[底])、各々
の深度で試料を採取した。以上9観測点から合計20件の試料を、1年間に4回(97年2
月、5月、8月、11月、98年2月)採取して、溶存酸素、水温、pHを計測すると共に、
栄養塩元素(P, Si, NO3-N, Kj-N, Am-N)の増減を化学分析によって確かめた。また、流
入河川の代表として安曇川を選び、流域に沿って配した15点で3回の観測(94年5月、
95年5月、97年5月)を行い、湖周辺から持ち込まれる化学成分の増減を記録にとど
め、湖を考察するための比較対象資料とした。

(3)研究成果の概要
 湖の底層部における夏季から秋季にかけての溶存酸素飽和度の低値は、66-67%(97年
8月)及び52-53%(同年11月)であった。近年の暖冬により、湖水の冬期循環が弱く、
底層部への大気中酸素の供給が十分でないとの予測に反して、上記の結果は、湖の底層部
が依然良好な酸化的状態にあることが分かる。すなわち、10数年前(73年ー75年)
の観測値、45-55%、にくらべて、湖の酸化還元的特性が長期にわたって維持されているこ
とがわかった。45-55%の溶存酸素飽和度をもって、将来の湖の変化の方向やその速度の基
準値とすることができると考えてよい。
 並行して実施した安曇川水質の3年間の調査から、この河川が輸送する栄養塩濃度の基
準値に近いものを求めることができた。各栄養塩は、格別に降雨の多い時期を除くと、定
常的な値を示している。詳細は別報するが、この河川に特徴的な濃度が、自然に調節され
る機構が備わっているように見える。