・研究代表者 京都大学理学部附属地球熱学研究施設 巽 好幸
・所内担当者 石原和弘
・研究期間 平成9年4月1日〜平成10年2月28日
・研究場所 地質調査所地殻化学部・京都大学総合人間学部
・参加者数 4名
(1)目的・趣旨 姶良カルデラは、鹿児島湾最奥部に位置し、約2万5千年前に噴出した入戸火砕流の給源である。 このような火砕流をもたらす大規模珪長質マグマ溜まりの形成は、巽・井上の吉野台及び牛根地域の 先カルデラ火山岩の研究により、0.5 Ma以前から貫入した玄武岩マグマによる下部地殻物質の溶融に よると示唆されている(Inoue, 1994)。しかしカルデラ周囲全域に渡る先カルデラ火山活動の時空 変化の詳細はまだよく分かっていない。このため、姶良カルデラ周縁部の先カルデラ溶岩と桜島のボ ーリングコア試料のK-Ar年代測定を行った。 (2)研究経過の概要 2回の現地調査により、姶良カルデラ周縁部の野外調査と京大防災研附属桜島火山観測所所蔵のボ ーリングコアから、年代測定用試料を採取した(附図)。これらを巽・井上の採取試料も併せ、年代 測定を京都大学と地質調査所で行なった。アルゴン定量はVG製希ガス用質量分析計を用いて感度法・ 質量分別補正法により、カリウム定量は炎光光度法により行なった。 (3)研究成果の概要 得られたK-Ar年代の概要は以下の通りである(別表、附図)。 1)鹿児島湾西岸吉野台地域 この地域では1 Maから0.5 Maにかけて玄武岩・安山岩・デイサイト・流紋岩溶岩の活動が起こり、 比高600m以上底径約10km程度の複合火山体を形成した。その後この山体はカルデラ形成により消滅し 山体の西部のみが残った。 2)鹿児島湾北西岸加治木地域 この地域では0.9 Maから0.5 Maまでの安山岩溶岩の活動のほかに0.04 Ma頃に流紋岩溶岩の活動が みられる。 3)鹿児島湾北東岸国分地域 この地域では 1.43 Maと0.06 Maの安山岩溶岩の活動のほかデイサイト質の火砕流が多数存在する。 0.06 Maの敷根安山岩の年代はそれを直接覆う岩戸火砕流の年代の上限を与える。 4)鹿児島湾南東岸牛根地域 この地域は0.4 Ma頃の玄武岩、及び0.04 Ma頃の流紋岩の活動が存在した。しかしこの流紋岩は桜 島南方沖小島ボーリングコアの流紋岩の年代(0.38-0.25 Ma)とは一致しなかった。 5)姶良カルデラ東縁部外側斜面に小規模分布する安山岩溶岩の噴出年代は1.4- 1.2 Maである。 以上をこれまでの成果に加えると姶良カルデラの先カルデラ火山活動は、 (1)現在の鹿児島湾南東岸の3 Maの安山岩の活動 (2)西岸・北西岸の1 Maから0.5 Maの玄武岩・安山岩・流紋岩の活動 (3)南東岸の0.4 Maの玄武岩の活動 (4)北西・北東・南東岸の安山岩・流紋岩の活動 と変化した。特に 0.4-0.5 Maの玄武岩と0.04 Maの流紋岩は、カルデラ縁の対岸で同時期の噴火 であり、カルデラ地下のマグマ溜まり進化を考える上で重要である。