・研究代表者 滋賀医科大学 西 克治
・所内担当者 林 春男
・研究期間 平成9年4月1日〜平成10年2月28日
・研究場所 滋賀医科大学法医学講座・京都大学防災研究所
・参加者数 4名
地震災害における人的被害推定、特に死亡者数の推定は、従来より、地震災害における 被害推定の重要な部分を占めるものであった。死亡者数の推定式の代表的なものとして、 東京都が用いた推定式 Log10D=0.95987・Log10(H+F)-1.02912 D:死亡者数、H:建物被害数(全壊数+0.2・半壊数、F:建物焼失数 があり、各自治体の被害推定システムの中でよく用いられているが、@建物被害を実数と して把握する必要がある、A死亡者数を過大に評価しがちである、という問題点があり、 必ずしも実用的な推定式とはいえないものであった。@については建物被害率を用いるこ とのできる推定式の開発、Aについては死亡者の発生分布における非正規性の補正が必要 であると考えられる。そこで、今回は、西宮市が罹災証明発行の目的で行なった建物被害 調査結果と兵庫県監察医が行なった被災死亡者の調査結果をもとに“探索的データ解析手 法(Exploratory Data Analysis : EDA)”を用いた人的被害推定式の開発を行なった。 西宮市の建物被害調査では、全壊24,049、半壊17,650であり、死亡者総数は1,010名で あるが、今回は受傷場所が特定できた857例について検討を行なった。西宮市における400 余りの町丁目各々の建物全壊率に対する人口1,000人当たりの死亡者数の分布を調べたと ころ上方への歪みが明らかとなった。このため、従来の最小自乗法を用いた回帰では分布 の歪みの影響を受けて過大評価に傾くことが分かったので、分布の歪みの影響を受けにく い中央値をもとに回帰を行ない、建物全壊率から人口1,000人当たりの死亡者数の推定式 として、 If X>25, Y=0.0044X2-0.1589X+1.2603, Otherwise Y=0 ; R2>0.61 が得られた。この推定式によれば、建物全壊率が25%に満たない町丁目では死亡者の発生 を見ず、25%を越えた場合、2次関数的に死亡者が増加することが明らかとなった。この 式の分散寄与率は61%と従来の最小自乗法による1次回帰ならびに2次回帰に比べて高く、 この式をもとに西宮市全体の死亡者数を推定すると769名となり、最も実数に近い推定が 行ない得た。今回用いたデータは実際の西宮市の死亡者数1,010名に対して857名であり、 約150名の未確認の死亡者が残されている。この未確認のデータを加えて解析の精度を向 上させることが、今後検討すべき課題である。