・研究代表者 京都大学防災研究所 佐々恭二
・研究期間 平成8年4月1日〜平成10年3月31日
・研究場所 京都大学防災研究所
・参加者数 42名
(1) 目的・趣旨 地すべり(高速)、斜面崩壊、土石流、火砕流、斜面液状化、落石など高速地盤崩壊現象は、地震、 豪雨、融雪、火山噴火、あるいは長期間のクリープの後に突発的に発生し、人命を伴う大災害を引き起 こす。これらの現象のメカニズムの解明と発生予測の研究を学際的・総合的に実施する。その重点は、 オリジナルな研究自体の推進よりも、関連する各分野の研究者が一堂に会して討論し、現在、研究され ているものの評価と関連づけ、総合化・体系化を行うことを目的とする。 高速地盤崩壊現象が特に問題となる、a)液状化に起因して発生する場合、b)地震によって生じる 場合、c)火山地域で発生する場合について研究を行う。特に、1)都市部の盛土地盤の地震時におけ る「すべり面液状化」の発生可能性の評価法についての実験の実施、及び現地試験方法の開発、危険斜 面の判定法について国立防災科学技術研究所、国土地理院、および広島大学等の研究者との共同研究、 2)小谷村土石流で注目されている崩壊誘起土石流について国内およびカナダ、米国の研究者と共同研 究を進める。また、高速地盤崩壊の前兆現象及び破壊の発生(Initial Failure) 大規模な高速地盤崩壊 現象の前兆現象の特定と発生場所の予知、クリープおよび破壊発生メカニズムの研究と破壊発生時間の 予知の研究を行う。 (2) 研究経過の概要 平成8年12月に発生した長野県小谷村の崩壊誘起土石流災害、平成9年5月の秋田県・澄川の地す べり・土石流災害、平成9年7月の鹿児島県・針原川の渓床堆積物の採取、およびリングせん断試験を 通じて崩壊誘起土石流の発生、流動機構の研究を行った。平成8,9年度に各1回ずつ共同研究者が京 都大学防災研究所に集合し討論会を開催した。各回の内容は以下の通り。 1回目は平成9年2月26日1時〜7時にかけて木質ホールにおいてシンポジウム形式で発表・討論 を行った。このシンポジウムでの発表者と演題は以下の通り。千木良雅弘(京大防災研究所)「巨大崩 壊とその前兆現象」/門間敬一(建設省土木研究所)「岩盤斜面の崩壊予知に関する調査」/洪勇(中 国・長春地質学院工程地質系)「Numerical Simulation of Sale-shan and Lishan Landslide, China by Sassa's Geotechnical Model 」/森脇 寛(防災科学技術研究所)「砂質斜面における崩壊土砂の 運動と流動化に関する降雨実験」/沼本晋也(東大農学部・院)「インドネシア・メラピ火山の97.1. 17噴火の概況とラハール災害危険予測」/三好岩生(京都府立大学農学部)/「回転ホイール型土石流 再現試験機を用いた流動抵抗の計測」/佐々恭二(京大防災研究所)「崩壊誘起土石流の発生機構につ いて」/関口辰夫(国土地理院)「磐梯山と眉山崩壊の流れ山地形」/岩橋純子 (国土地理院)/ 「雲仙岳周辺の火山土地条件図」/林 拙郎 (三重大学生物資源学部)/「斜面崩壊に至るスライド の加速モデル」/千代延真 (京大防災研究所・院)/「リングせん断試験によるクリープ試験とシミ ュレーション」。 また、2回目は平成10年1月31日9時30分〜6時にかけて木質ホールにおいて開催した。こ のシンポジウムでの発表者と演題は以下の通り。千葉達朗(アジア航測株式会社)「1997年5月11日澄 川地すべりの概要」/星野 実(建設省国土地理院)「1997年八幡平澄川地すべり・土石流による地形 変化」/泉 典洋(東北大学工学部)「澄川土石流の堆積形状とその後の河道再形成過程 」/井口 隆(科技庁・防災科学技術研究所)「1997年5月に起きた八幡平澄川地すべりの変動と流下堆積物」/ 千木良雅弘(京都大学防災研究所)「1997年八幡平澄川の地すべり・土石流について」/佐々恭二(京 都大学防災研究所)「澄川での崩壊誘起土石流の発生機構」/三森利昭(農水省・森林総合研究所)「 崩壊発生時の過剰間隙水圧−人工降雨による崩壊実験結果−」/恩田裕一(名古屋大学・農学部)「降 雨流出ピークの遅れ時間の違いからみた崩壊発生時刻予知の可能性」/森脇 寛(科技庁・防災科学技 術研究所)「針原川土石流における崩壊土砂の運動について」/岩尾雄四郎(佐賀大学理工学部)「針 原川土石流のボ−リング・電探の結果」/佐々恭二(京都大学防災研究所)「針原川土石流源頭部の流 動性崩壊の発生機構」/岩松 暉(鹿児島大学理学部)「台風9719号による鹿児島県田代町の斜面災害」 /牛山素行(東京都立大学理学部・科学技術振興事業団研究員)「針原川土石流災害時の降水量の特徴に ついて」/森山聡之(九州大学工学部)「平成9年針原川土石流当時のレーダで捕らえた雨域の変遷」 /丸井英明(新潟大学積雪地域災害研究センター)「蒲原沢土石流源頭部の崩壊」/諏訪 浩(京都大 学防災研究所)「蒲原沢土石流の流動」/山田 正(中央大学理工学部)「12.6 蒲原沢土石流災害時 の水文気象状況」/堀 伸三郎(応用地質株式会社)「十勝岳大正泥流の発生・流下機構」/檜垣大介 (ネパール治水砂防技術センター)「ネパール・1993年水害における土石流災害」/LANG YuHua(東京農 工大学・農学部)「中国の崩壊誘起土石流及びその拡散範囲の3次元予測」。 (3) 研究成果の概要 * 蒲原沢土石流災害の発生、運動メカニズムについて共同研究を行い、成果を月刊「地球」特集号等で 公表した。蒲原沢、澄川、針原川の各崩壊誘起土石流災害現場を合同で調査、土の採取を行い、リング せん断試験機を用いて「すべり面液状化」の実験的検証を行った。 * 針原川の源頭部試料についてリングせん断試験機を用い間隙水圧を上昇させる試験を行い、豪雨時の 地すべり再現試験を行ったところ、破壊線到達後、すべり面液状化が発生し高速運動が再現できた。 * リングせん断試験機内ですべり面液状化による高速せん断運動中、排水/非排水条件の切り替えを行 ったところ、非排水条件で体積変化は起こらないが、排水条件下では粒子破砕による体積収縮が継続し た。粒子破砕による透水係数の減少が確認され、試験後の試料断面の観察と粒度分析により、せん断ゾ ーンで粘土化が進行していたことがわかった。 * 非排水試験と乾燥試料についてのリングせん断試験を行い、粒子破砕による体積収縮の程度とすべり 面液状化の発生しやすさの定量的解析を行った。 * 緩傾斜での地震時地すべりの再現試験を行ったところ、液状化が起こり、液状化に至るまでに必要な エネルギーを調べたところ、繰り返し載荷周波数が高いほどエネルギーが小さいという周波数依存性が 見られた。 * 中国のレスを用いたリングせん断試験機によるクリープ試験を異なるOCRで比較した。せん断面沿い にピーク強度が正規分布をもつモデルを提案、数値シミュレーションを行い、3次クリープに移行する 過程の変位曲線の形状の相違を再現した。