地 球 の 裂 け 目

− アイスランド −

写真中央に見える白壁の一軒家のほんの少し手前で裂け目が止まった。


 日本列島はユーラシアプレートの上に乗っている。東から押し寄せてくる太平洋プレートはその下に沈む。 このようにプレートが沈み込んで消滅するところがあれば、当然のことながら生まれ出てくるところもある。 ほとんどのプレートの生産地は深い海の底にあるが、唯一陸上でその生産を見ることができるのはアイスランドである。
 1996年9月始め、レイキャビックで開かれたヨーロッパ地震学会に出席した際、「プレート境界巡見」の2泊3日のツアーに参加した。日本からは束京大学の山下先生と私の2人だった。アイスランドは地球の巨大な力で東西に引っ張られている。年間2cmづつ東西に開くと下図には示してあるが、これは平均値であって、 実際には数百年単位でまとめて一挙に数m〜数十m裂けるらしい。
 最近の大活動は1976年にあり、激しい地震活動と共に島の北東部が6m〜9m東西に開いた。今同のツアーはこのできたての裂け目巡見である。大地が裂けるとき夥しいマグマが流れ出て、真っ黒になった溶岩が裂け目に沿って延々と統いているのが空から見えた。両側は玄武岩の絶壁に囲まれ、さらにその外側は大小の火山が無数に出来て、至る所から噴煙が上がっていた。火山と言っても独立した高い山はなく、隆起と噴出物によって全体が盛り上がった結呆、リフテングゾーンと呼ばれる起伏に富んだ、なだらかな地形が出来た。
 地面はできたてのほやほやで柔らかく、踏み固められた所でないと、靴がはまりこんでしまう。それに熱い。 ツアー参加の注意書きに「底の溶けない靴を履いてくること」とあったが、すっかり忘れていた。日本ならこんな所はとっくに立ち入り禁止にすると思う。もっともこんな所へわざわざ来る普通の人はいないだろう。 地面はまだ何の浸食も受けず、表面的にはきれいな肌のようだったが、見渡した光景は美しい地獄のようでもあった。この時のプレートの拡大の様子をリアルタイムで捉えていたのは、なんとすぐ側に建設中の地熱発電所の傾斜変化だった。この発電所はユーラシアプレートの端っこに乗っていたので裂け目に落ちずに済んだ。 まわりじゆう火の海に囲まれた中で発電所の電気が明々と灯っている当時のパネル写真があったから、この大事件のさなかも発奄していたらしい。見上げた立派な発電所、やっぱり発電機は日本製だった。こんなにがんばって発電しても、アイスランドでの電力需要は多くない。有り余る電力を、かつてはアルミニュームにして輸出していたそうだが、今はアルミの景気は良くないらしい。直接海底ケーブルでヨーロッパに電力を売る計画があるそうだ。
 島の北東部で始まったこの裂け目はどんどん北へ伝わって行き、フューサビックという港町近くまで80kmほど進んだ。上図の写其中央に写っている白壁の家のすぐ手前まで来て、ようやくこの割れ目は止まった。この家は間一髪で難を逃れたわけである。
地震予知研究センター 梅田康弘

東のユーラシアプレートと西の北アメリカプレートが矢印で示すように互いに逆の方向に進行しているため、アイスランドは裂けて拡がっている。黄色い帯状が裂け目でブレートの生産地。海嶺は赤い線で示してある。島内の白い所は氷河。楕円状に囲まれたのは火山。黒い点々は地震。地震観測点は南西のレイキャビックと北東のフューサビック周辺の海岸付近にしかないため、その付近に地震分布が偏っている。
原図はIcelandic Meteorological Officeから。