式 辞



 本日、ここに京都大学防災研究所創立50周年記念式典を挙行する運びとなりましたことに対し、ご多忙の折りから文部科学省からは研究振興局学術機関課研究調整官 本間 実様、本学の 長尾 真総長、文部科学省所轄並びに国立大学附置研究所長会議第一部会長 東京大学宇宙線研究所長 吉村 太彦先生をはじめ学内外の諸機関でご活躍の諸先生に多数ご臨席を賜り心からお礼申し上げます。

 省みますと昭和26年(1951年),災害の学理とその応用の研究を行うことを設置目的に京都大学に附置された防災研究所は,当初わずか3部門の構成でありましたが,その後、伊勢湾台風、新潟地震等の大災害の発生、地震予知計画の推進などとも関連し、さらには学内外の研究者による総合的な共同研究の必要性の高まりなど,研究所と学部の研究組織をも包含した整理統合を行いながら順次整備され,平成7年には16研究部門,4研究センター及び7実験所・観測所を有する大規模な研究所に発展しました。これにより,地震,火山,地すべり・土石流,洪水,高潮,強風などわが国で問題となる自然災害をほとんどカバーした理工学的研究が進展するとともに,社会システムをより災害に強い構造にするという,いわゆるソフト対応のための研究 にも着手しました。その後も社会の災害に対する脆弱性の増大の中で起こった阪神・淡路大震災といった巨大災害,地球規模の環境変化と災害頻発の懸念,IDNDR(国際防災の10年)を主導した実績からの災害多発国への積極的な貢献など国内外にわたって防災学研究への要請と緊急性の高まりが強くなってきました。
 こうした防災学研究への要請の変化と緊急性に応えるべく本研究所は平成8年度,組織を抜本的に見直し,部門・センターの整理統合によって総合防災,地震災害,地盤災害,水災害,大気災害の5大研究部門,災害観測実験,地震予知,水資源,火山活動,巨大災害の5研究センター制に組織替えをしました。従来力を入れてきた災害を伴う自然現象の予知・予測と災害の防止・軽減のための構造物的な対応法の研究といった理工学的な研究と,被災する側の人間及び社会の問題を人文・社会科学,計画科学,さらには危機管理までを含めた研究とを有機的に結びつけた、いわば文理工を融合した総合的な研究体制の整備をはかりました。これに伴い,研究所の設置目的が災害に関する学理の研究及び防災に関する総合研究に変更されました。そして,改組のもう一つの眼目は全国の大学共同利用の研究所としたことであります。こうした改組とともに,昭和26年設置後たゆまず続けてきた研究・教育活動はもとより,わが国の防災研究にあってつねに中心となり新たな研究分野を切り開こうとしてきた姿勢が評価され,平成9年度に「卓越した研究拠点-センター・オブ・エクセレンス」(COE)の研究機関に認められました。
 文部科学省をはじめ国の関係諸機関および本学のご理解と絶大なるご支援のお陰と深く感謝した次第です。また創立以来、歴代所員の創意と着実な研究の成果が認められたことを、われわれ一同大きな喜びとしたところでございます。
 この後、こうした改組と体制のもとに部門・センター単位の研究活動や観測・実験活動はもとより,共同研究プロジェクト,GAME(アジアモンスーンエネルギー水循環研究観測計画),UEDM(都市地震災害軽減に関する日米共同研究),IGCP425(国際地質対比計画、文化遺産と地すべり災害予測)EQTAP(アジア・太平洋地域に適した地震・津波災害軽減技術の開発とその体系化に関する研究)などの国際共同研究,阪神・淡路大震災関連調査研究,突発災害調査研究などの研究活動,COE活動と国際交流,ユネスコやIIASA(国際応用システム分析研究所)など国際機関との研究交流協定活動,研究集会や公開講座・シンポジウム・セミナー等社会との連携活動など,活動の幅を広げるとともに,自然災害総合研究ネットワークをとりまとめ自然災害研究 協議会を設置するなど防災科学のCOE機関として,また全国共同利用の研究所として,その役割を積極的に担っているところでございます。大学院における教育・人材育成にもこれまで以上に広く積極的に関与しているところであり,また災害の個性化や地域性の進化,さらに新たな環境災害や複合災害など災害の質的変化,にも柔軟に対応できる組織化や官・民との連携も検討しており,21世紀を迎えたこの時期さらなる前進を目指しているところであります。
 ここに50年の歩みを振り返り、文部科学省、本学および関係各局のご尽力、ご支援ならびに先人のご努力に深く感謝申し上げますとともに、今後とも所員一同結束して研究と教育に邁進する所存でごさいますので、従前と相変わりませぬ皆様のご支援とご助力をお願い致しましてご挨拶に替えさせて戴きます。

平成13年4月18日
京都大学防災研究所長 池淵周一