オクラホマ大学での10ヵ月


 1998年9月から1999年6月の10ヵ月間、文部省在外研究員としてオクラホマ大学土木環境工学科の中にある EMGIS (Environmental Modeling and GIS) 研究室に滞在しました。
受け入れ教官は防災研究所にこれまで3回来られたことのある Vieux 助教授です。この研究室のキーワードは GIS、Advanced distributed runoff model、Radar rainfall、Digital maps といった言葉で表すことができます。主要な研究課題は洪水流出予測手法の高度化です。
 滞在中、私は降水の時空間分布やモデルパラメータの空間分布が洪水流出シミュレーション結果に及ぼす影響に関する研究に従事していました。

 ノーマンでの生活 
オクラホマ大学での生活    
 オクラホマ大学はオクラホマシティーから約30マイル南にあるノーマン市にあります。ノーマン市の人口は約8万人、そのうちオクラホマ大学の学生が約3万人という大学町です。キャンパスは市の中心部から南に広がっており、市の面積の1/10程度をキャンパスが占めます。キャンパス内にはバスターミナルがあり、市内を走るバスはすべてここから発着します。主だったところはバスで行くことができるため非常に便利です。キャンパス内には大学が運営する大型のアパートが3ヶ所にあり、アパートには夜11時までバスが運行しています。これらのアパートに住んでいると車をほとんど必要としません。実際、私は車を所有することなく10ヵ月を過ごしました。
 この町の印象を一言でいうと、非常に静かな町ということでしょうか。
 大学町であるために治安もよく、深夜でも自転車でアパートに帰る学生もいます。お酒を買うときも ID を求められることはありませんでした。TC を使うときも全くノーチェックです。もう少し、チェックしたらとこちらが感じるくらいでした。

 オクラホマでの自然災害とそれに関連する研究施設 

    メゾネット ノーマン観測地点
 この地で発生する主な自然災害は、竜巻と局所的な豪雨によって発生する Flash Floods による風水害です。竜巻の発生個数は全米の州のうち、オクラホマ州がもっとも多く、1961年から1990年の間では、年間平均47個の竜巻が報告されています。
 オクラホマ州の場合、竜巻の発生は4月から6月に集中します。
このような気候を持つ土地であるため、オクラホマ州には、風水害による被害を防止・軽減するための気象観測施設が充実しています。その一つがオクラホマ・メゾネットです。これはアメダスのようなルーチン気象観測システムであり、観測項目が非常に多いのが特徴です。15分間隔で様々な気象データを測定しており、オンラインでデータをダウンロードすることができます。
 これらのデータは気象の現況把握・予測に非常に威力を発揮しています。また、これらのデータは農業や道路交通に関する情報を発する場合にも用いられています。
 オクラホマ州内部に約 100 基設置されており(約 1,000 km2 に一つの割合)、メンテナンスに一基、一年間で約100万円かかるとのことです。つまり、全体のメンテナンスに一年間で約1億円の費用が発生し、このお金は州政府の予算によって賄われているそうです。メゾネットのノーマン観測地点は研究用サイトとなっているため、ルーチン観測以外にも、様々な測器が設置されています。
 もう一つ、ノーマンには NOAA (米国海洋大気庁)の National Severe Storm Laboratory の本部があります。ここではレーダーや地球観測衛星による気象観測・予測や洪水予測に関する研究を行っており、オクラホマ大学の気象学教室や私が滞在した EMGIS 研究室とも共同研究を行っています。

 1999年5月3日にオクラホマ州を襲った竜巻 

 観測史上、最大規模の竜巻が5月3日に発生し、午後6時過ぎにオクラホマシティーの南西から北東に向かって通過しました。強風によって多くの家屋が破壊され、残念なことですが、現地のニュースが伝えるところでは43名の方が亡くなられました。
竜巻による被害(Del city)車につきささる木片(Midwest city)

竜巻の強さは風速によって F0 から F5 の6クラスに分類されており、このときに襲来した竜巻は最も強い F5 クラス(風速 261〜318 mph、秒速にすると 116〜141 m/sec) の竜巻でした。
この竜巻の強度分類は Fujita tornado scale と呼ばれています。
帰国後、大石先生(水資源研究センター)に教えて頂いたのですが、Fujita scale はシカゴ大学で教鞭を取っておられた藤田博士の発案によるものだそうです。日本人の仕事が米国の防災現場で役だっており、誇らしく感じます。

ノーマンには風水害に関する様々な研究施設があります。ここでの研究が防災に役立つことを願ってやみません。今後ともこれらの研究機関と関係を保ちつつ、水害の防止・軽減のための研究に取り組んで行く所存です。

水災害研究部門 立川康人