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2.結果の解析

 以下に新規項目についてのアンケート結果の分析をまとめた.まとめ方としては,まず防災研究所全体の傾向を分析し,次に「教授」,「助教授」,「助手」という職階別に分けた場合と,「50歳以上」,「40〜49歳」,「39歳以下」という年齢別に分けた場合について分析を行った.

(1)防災研究所全体の評価:

 全研究者についてみると,図2の「大項目件数割合」の円グラフに示すように,「I:学術的貢献」,「H:社会へのフィードバック」,「J:委員会活動での評価」,「F:若手育成」,「L:社会的貢献」,「K:研究成果」が13〜9%で上位を占め,バランスのとれた傾向を示しているといえる.各項目があげられた順位に着目すると,表1の「大項目別件数表」に示すように,「I:学術的貢献」と「K:研究成果」は1〜2位にあげられているのに対し,「H:社会へのフィードバック」と「J:委員会活動での評価」は3〜4位となっている.「I:学術的貢献」,とくに「I-1:長期的な視点から価値のある研究」が最も重要であるという認識が示された結果であるといえる.

 これに対して,「M:防災以外の分野との連携」,「G:広報」,「E:研究支援体制の整備」は図2の「大項目件数割合」が示すように2〜4%と低い割合になっており,ここには改善の余地があると思われる.

 まず,「M:防災以外の分野との連携」が低いことは,防災・減災研究が広範囲な学問分野にまたがる総合研究であるという事実とは反する結果となっている.これは,研究テーマが災害メカニズムの解明に偏っていることが大きな要因であろう.被害を軽減するための研究では多くの研究分野の視点が必要であるにもかかわらず,防災研究所は今も災害メカニズムの解明という科学技術的課題として防災研究を進めようとしているといえる.

 「G:広報」が低いことに関しては,「H:社会へのフィードバック」と重なる面があることを考慮する必要があるが,防災・減災研究の成果の国民への説明責任(アカウンタビリティ)の向上が必要であるにもかかわらず,全所的な取り組みが不足していることを示している.平成16年度からの法人化に関連して広報は一段と重要になるのであるから,早急な改善が望まれる.研究所として,各研究者に広報への努力を重視するような働きかけのほかに,別途,広報に関する専門家の雇用も視野に入れた改善が必要であろう.

 「E:研究支援体制の整備」には,研究室の計算機やネットワークの維持管理,観測施設の維持管理,外国人研究者や留学生の対応,等があげられている.この項目が低いことは,これらの仕事が少数の研究者によって行われていることを示していると考えられる.このような一部研究者への過剰な負担を軽減するためには,外部の専門家の支援を得るような努力が必要である.

表1 全研究者
図2 全研究者

(2)職階別(教授、助教授、助手)と年代別(50歳以上,40〜49歳,39歳以下)評価:

 母集団の構成が,職階別では「教授:33名」,「助教授:34名」,「助手:37名」とほぼ同じであるのに対し,年齢別では「50歳以上:50名」,「40〜49歳:33名」,「39歳以下:21名」とかなり違うことに注意が必要である.

 「39歳以下」の若手では,「39歳以下大項目件数割合」に示すように,「I:学術的貢献」,「K:研究成果」,「F:若手育成」が14〜12%と多い.項目の順位を見ると,「I:学術的貢献」と「K:研究成果」が1位にあげられているのに対し,「F:若手育成」は5位までに分散している(「39歳以下大項目別件数表」).「C:研究への積極性」,「H:社会へのフィードバック」,「J:委員会活動での評価」,「M:防災以外の分野との連携」は2〜3位でかなりの割合を占めている.これらから,学術研究を最重要課題としつつ,成果の社会還元や防災以外の分野との連携に取り組もうとしている若手像が見える.しかしながら,学生指導,委員会活動,研究支援(ネットワークの管理など)が過度の負担になっているのではないかと危惧される.

 「40〜49歳」の中堅では,「40〜49歳大項目件数割合」に示すように,「J:委員会活動での評価」,「H:社会へのフィードバック」,「I:学術的貢献」,「K:研究成果」,「F:若手育成」,「L:社会的貢献」,「C:研究への積極性」,が17〜9%で大きな割合を占める.順位を見ると,1位では「K:研究成果」があげられているのに対し,2位以下の件数により「J:委員会活動での評価」や「H:社会へのフィードバック」がそれを上回る割合を占めていることがわかる(「40〜49歳以下大項目別件数表」).中堅研究者は,研究所内外の委員会活動,所属学会関連の委員会活動や社会活動を求められ,それに答えている.確かにこれらの活動は重要であるが,それらに忙殺されて,一番したい学術研究に十分な時間が取れなくなっているのではないか.

 最後に,「教授」では,「教授大項目件数割合」に示すように,「I:学術的貢献」,「J:委員会活動での評価」,「F:若手育成」,「H:社会へのフィードバック」,「L:社会的貢献」,「C:研究への積極性」,「K:研究成果」,「D:研究の視点」が15〜7%で大きな割合をもつ項目となっている.教授は,学術研究活動と社会活動のバランスが良く,委員会活動と学生指導にも積極的であるといえる.その反面,広報活動や研究支援体制の整備,他分野との連携にはあまり熱心ではないことがうかがえる.


表2 「39歳以下大項目件数」  表3 「40〜49歳大項目件数」  表4 「50歳以上大項目件数」
図3 「39歳以下大項目件数」  図4 「40〜49歳大項目件数」  図5 「50歳以上大項目件数」
表5 「大項目件数(教授)」  表6 「大項目件数(助教授)」  表7 「大項目件数(助手)」
図6 「大項目件数(教授)」  図7 「大項目件数(助教授)」  図8 「大項目件数(助手)」

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