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4.6.2 研究領域の活動概要

V.気象海象観測実験領域

助教授 山下隆男、助教授 林 泰一
助手 芹澤重厚、助手 加藤 茂


@領域の研究対象
 気象・海象に関する防災及び環境保全の研究を進展させるため、白浜海象観測所、潮岬風力実験所(和歌山県)、大潟波浪観測所(新潟県)の3観測実験施設が共同して、気象・海象災害外力、強風災害、沿岸海域環境に関して以下のような研究を重点的に行っている。台風の気象学的な3次元構造、台風時及び冬季季節風時の日本海の海上風特性およびそれによる高波浪、広域海浜流、高潮の発生・発達機構の解明と予測に関する研究。海浜保全、沿岸域の環境要因と生態系の変動予測に関する研究。構造物の強風災害。コレラなどの伝染病発生と気象/気候現象に関する生気象学的研究

A現在の主な研究テーマ
1)台風の構造及び高潮のダイナミックスと数値予知
2)大気−波浪−海水循環系の3次元解析システム
3)大気境界層における強風の観測
4)大気−陸面相互作用(エネルギー交換機構)
5)構造物の強風災害
6)広域海浜流・漂砂循環系と海浜地形変化予測
7)沿岸域環境防災のためのモニタリング手法

B各研究テーマ名
(1)台風の構造及び高潮のダイナミックスと数値予知        (山下隆男、林 泰一)
目的:高潮・高波の発生発達機構を動力学的に解明するため、その発生原因である台風の気象学的構造と海水流動の海洋学的解析を行い、これらの結果を数値予知技術に還元する。
方法:メソ気象モデル(MM5)による台風の気象学的な再現と、観測データによる検証、モデルの改良。この台風再現結果による海洋波浪および海水流動の数値計算と、観測データによる検証。並列計算機システムによる各数値モデルを連結系の構築。
成果概要:Pentiumプロセッサー20CPUによる並列計算機システムを構築した。これにより、並列計算用の気象モデル(MM5)、波浪推算モデル(WAM)および海洋モデル(POM)を連結系とした計算するシステムの実行と、観測データによる計算結果の検証を行っている。現在、MM5およびPOMの並列計算化は完了した。これを用いて、有明海の潮汐計算を実施し、PACON2002で研究成果を発表した。

(2)大気-波浪-海水循環系の3次元解析システム(山下隆男、芹澤重厚、加藤 茂)
目的:大気・海面相互作用に関する基礎的研究を行う。
方法:大気・海洋間の運動量、熱、物質交換に関する理論を進展させるとともに、格子ボルツマン法(LBM:Lattice Boltzmann Method)による大気・海面過程に関する数値解析と田辺・中島高潮観測塔(防災研究所)における観測データを用いて、風波の発達・減衰機構、風波の粗度要素、白波砕波による風波のエネルギー散逸量、および熱・水蒸気・CO2の界面交換過程に関する基礎的な研究を行う。
成果概要:大気・海洋間の運動量、熱、物質の交換のために、次のような点に関する研究を推進している。@)wave-induced stressのような、風波により発生する比較的大規模な大気乱流による形状抵抗とwaveletsによる空力学的粗度特性を波齢および大気の安定度との関数で系統的に表現できるモデル、理論を検討中である。A)海面境界近傍における波動および大気の運動の運動学的・熱力学的解析研究のため、2相流問題を対象としたLBMを作成したが、現在は密度差1:20程度が限界である。これを実流体の1:800まで拡張することを試みている。B)breaker stressの定義による白波砕波減衰と表層流への運動量変換モデルを作成した。

(3)大気境界層における強風の観測 (林 泰一)
目的:大気境界層における強風の発生や空間的な構造について観測の立場から研究する。
方法:潮岬風力実験所やMU観測所(信楽)において、3次元超音波風速計、ドプラーソーダー、境界層レーダーを利用して、地上から約1kmまでの大気境界層全層にわたる風速3成分の連続的な観測を実施してきた。
成果概要:大気接地層における突風前線を見出した。この突風前線は数10mの狭い範囲で風速場に収束が見られ、この突風前線に引き続いて強風域が数kmにわたって分布していることが解明された。この地上の強風は大気境界層上部から吹き降りてくる過程が明らかになった。さらに、大気境界層全層に広がる重力波の存在を観測することに成功した。

(4)大気-陸面相互作用      (林 泰一)
目的:大気と陸面の間でのエネルギー、水交換過程について長期連続的に観測し、その特性を明らかにする。
方法:Asia Flux Net(AFN)の観測拠点として認定されている潮岬風力実験所において、3次元超音波風速計、赤外線湿度変動計などの乱流計測機器を用いて、大気接地層中の運動量、顕熱、潜熱の乱流輸送量を長期にわたって観測している。
成果概要:顕熱や潜熱の乱流輸送量を推定し、大気接地層中の水・エネルギー交換過程について、水収支、熱収支の立場からその妥当性を検証した。その結果、水・熱収支は短期間ではあまり精度良く成立するのもではないことが判明した。また、強制復元法モデルを応用して、地表面温度を行い、精度の良い推定方法を確立した。

(5)構造物の強風災害       (林 泰一)
目的:台風、竜巻やダウンバーストなどに伴う強風に対する構造物の応答を調査研究する。
方法:潮岬風力実験所において、斜張橋の支持ケーブルや建築構造物模型の強風時の応答を現地観測するとともに、風洞実験を実施した。
成果概要:降雨によって、ケーブル断面の変形が発生するため、強風にタイするケーブルの応答過程が変わることを定量的に評価した。角柱模型まわりの風圧分布の風向や風速による分布形状の変化を解明した。さらに、屋根瓦の飛散過程についても新たな知見を得た。また、台風や竜巻、ダウンバーストの発生現場で被害資料および気象資料の収集を行い、災害を引き起こしたメソ気象現象の解明と被害の実態について調査した。

(6)広域海浜流・漂砂循環系と海浜地形変化予測(山下隆男、加藤茂)
目的:冬季季節風による沿岸海域での流れを広域海浜流と定義し、それによる物質輸送、特に漂砂に着目して、広域漂砂とそれによる海浜地形変化の予測方法を確立し、広域の漂砂災害を防止・軽減する。
方法:大潟波浪観測所を核とした広域海浜流・漂砂観測を行い、観測結果に基づいた流れ、漂砂、海浜変形の数値予測モデルを構築する。これにより、広域漂砂を考慮した冬季日本海沿岸の侵食海岸の海岸保全対策を確立する。
成果概要:1999年に広域海浜流観測を実施した。このデータに基づいて長期海浜変形モデルとして広域海浜流、特に沖向き流れの影響を考慮したn-ラインモデルを構築している。一方、3次元広域海浜流モデル(構築済み)を基盤とした短期的海浜変形予測モデルの構築と、観測桟橋での観測データによるモデルの検証を行っている。

(7)沿岸域環境防災のためのモニタリング手法(芹澤重厚、山下隆男)
目的:田辺湾を研究サイトとして、沿岸海域での生態系モニタリング手法の構築と、高潮、津波等の災害外力による生態系へのインパクト、生態系共生型防災対策に関する研究を行う。
方法:田辺湾湾口にある田辺中島高潮観測塔および田辺湾内にある近畿大学水産研究所の環境モニタリングテレメトリーとを用いて、植物プランクトン細胞数の変動を予測するモデルを構築する。高潮、津波監視システムを構築し、大阪湾、紀伊水道の高潮、津波モニタリングとそれらが生態系へ与えるインパクトの観測研究を行う。
成果概要:田辺湾における環境モニタリングテレメトリーを用いたニューラルネットワークによる赤潮発生予測法を開発し、実務レベルでの運用を始めた。高潮、津波現象を高精度で観測するための監視システムを構築している。来るべき南海地震津波防災、および高潮防災における環境共生型対策の在り方を検討している。

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