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 3.5 国際学術・共同研究


3.5.1国際共同研究の概要

 防災研究所は、わが国における自然災害を研究する総合的研究機関として、文部省の国際共同研究特別事業および国際学術研究を軸として研究の国際的な推進を図っている。
「国際防災の10年」に対する防災研究所の取り組みとして文部省特別事業「中国およびインドネシアにおける自然災害の予測とその防御に関する国際共同研究」を申請し平成6年から5年間の計画が採択され研究が実施された。本共同研究ではインドネシアを対象とした「火山とテクトニックス」(I-1)、洪水と海岸災害(I-2)、および中国を対象とした地震災害(C-1)、地すべり災害(C-2)、土石流災害(C-3)、に関する予測と防災対策に関する研究を行なった。
気候変動国際協同研究計画(WCRP)の大型サブプロジェクトである「全球エネルギー水循環研究計画(GEWEX)の1部であるアジアモンスーンエネルギー水循環研究観測計画(GAME)に対する取り組みに対し、平成8年度から3年間国際共同研究等特別経費、および平成11年度から3年間文部省科学研究費(特定領域B)が採択され研究が実施された。本計画では水資源研究センターが中国淮河流域地域の観測研究と水文モデリング、大気災害部門がチベット高原地域における大気境界層の研究で中心的役割を果たした。 1996年の日米首脳会談の議題の1つとしてとりあげられた「地震災害の軽減のための共同事業」の一環として「都市地震災害の軽減に関する日米共同研究」が平成10年文部省特別事業として採択され、平成11年からは文部省科学研究費(特定領域B、3年間)として研究が実施されている。本研究は京都大学防災研究所が中心となり、全国の研究者と協力して、米国科学財団(NSF)の公募により採択される米国側研究協力者として研究を実施するものである。
UNESCO(国連教育科学文化機関)は研究プログラムの1つとして、UNESCOとIUGS(国際地質連合)との共同プロジェクトIGCP(国際地質対比計画)に取り組んでいる。IDNDRの研究として行なった中国西安市文化遺産の地すべり災害予測の成果を基にして、防災研究所の地すべり研究グループが中心となり危機に晒されている文化遺産を守るための国際的な活動を行なっている。その1つとして「文化遺産およびその他の社会的価値の高い地区における地すべり災害予測と軽減に関する国際共同研究」をIGCPプロジェクトとして申請し、1998年(平成11年)2月に、IGCP-425の5年間プロジェクトとして採択され研究を進めている。
 その他の本研究所と取り組んでいる国際共同研究として、地すべり危険度軽減と文化・自然遺産の保護に関してユネスコとの研究協力、大規模高速地すべりの発生・運動機構に関するカナダとの政府間科学技術協力協定に基づく研究、東南アジア・太平洋水域の流域水利用およびデータ環境に関する国際共同調査、水・人間・地球の相互作用を考慮した持続的可能な水資源環境に関する国際水文学研究バングラデッシュ北東部における氾濫湖の消長に関する国際的な気象・水文学的研究、などがある。


3.5.2 UEDM 文部科学省研究費特定領域研究(B)

「日米共同研究による都市地震災害の軽減」−研究共同体制の概要−
文部科学省・研究振興局学術振興助成課(日本側)米国科学財団(National Science Foundation,米国側)
研究代表者
亀田弘行(京都大学防災研究所 教授)
研究組織
総括班(総括幹事/佐藤忠信、京都大学防災研究所 教授)とコーディネイション委員会(委員長/小谷俊介、東京大学 教授)を設け、以下の計画研究で研究を実施している。
計画研究1−1(京都大学防災研究所 岩田知孝)
計画研究1−2(早稲田大学理工学部 濱田政則)
計画研究2−1(東京大学地震研究所壁谷 津寿海)
計画研究2−2(京都大学工学研究科 井上一朗)
計画研究3−1(東京工業大学工学部 川島一彦)
計画研究3−2(京都大学防災研究所 鈴木祥之)
計画研究4−1(京都大学防災研究所 岡田憲夫)
計画研究4−2(神戸大学都市安全研究センター沖村 孝)
計画研究5−1(京都大学防災研究所 河田恵昭)
計画研究5−2(東京大学国際災害軽減工学研究センター 須藤 研)
−国外研究組織−
米国側の研究課題の調整は米国側コーディネイション委員会(委員長/Mete A. Sozen, Purdue University)が行なっており、共同研究実施体制に関しては日本側コーディネイション委員会と共同して相互の調整を行なっている。
米国側の研究課題は日本側カウンターパートが設定されていることを条件に、12、13年度で15名程度が採択されている。主な採択機関としてはPurdue University, University of Califor-nia at Berkeley, University of Illinois at Urbana, University of Washington, Stanford University等である。

(a)研究の背景と目的
 1995年兵庫県南部地震と1994年ノースリッジ地震による災害は、マグニチュード7クラスの地震が大都市圏の直下で発生すると甚大な被害をもたらすという、日米共通の課題を明らかにした。大都市直下に発生する地震に対する都市基盤施設の脆弱性が浮き彫りになったことを受けて、1996年4月に東京で開催された日米首脳会談において、都市地震災害を軽減するための研究の重要性が共通議題の一つとして取り上げられた。
 日米首脳会談の議題となった「地震災害の軽減のための共同事業」を実施に移すための研究課題の候補として1996年6月の次官級会合で以下の9項目が決定された。1)地震ポテンシャルの定量化、2)地震災害による損失の推定法、3)震源過程に関する基礎理論の検証、4)震源近傍の地震動と地質・地盤の影響ならびに構造物の応答特性、5)鉄骨構造に係わる地震危険度の軽減、6)既存構造物と社会基盤施設の補強と耐震性評価、7)性能規定型耐震設計法の開発、8)実時間地震情報システムの開発、9)地震火災の制御。
 日米首脳会談を受けて、1996年9月に米国科学アカデミーにおいて、日米地震政策会議が開催された。日本国国土庁長官ならび米国連邦危機管理局(FEMA)長官の出席のもとに地震防災に関わる省庁の代表者が首脳会談の共通議題を具体化する方策について話し合ったものであり、文部省からも日米の大学間における研究協力についての提案がなされた。
 共通議題「地震災害の軽減のための共同事業」を実行するために、文部省として何を研究課題とし、具体的な機構をどのように構築するべきかを検討するために、文部省科学研究費と米国科学財団研究費の援助の下に「第2回都市地震災害軽減のための共同研究に関する日米ワークショップ」が1997年2月27日〜3月1日に東京で開催された。このワークショップにおいて、4つの分科会の討議に基づき、重点研究課題が選定された。また、日米共同研究を推進するうえで、両国の政府機関と大学の相互関係の調整を図るために、コーディネイション機能を持つ委員会を双方に設けることが合意された。
 以上の経緯に基づいて、米国側では平成10年10月から米国科学財団(NSF)のプロジェクト(5年間)として、年間150万ドルの予算で「都市地震災害の軽減に関する日米共同研究」が開始された。
 日本側においては平成10年度から平成15年度までの6年間の文部省特別事業として、「都市地震災害の軽減に関する日米共同研究」を京都大学防災研究所が実施機関となり開始したが、一旦この事業を終了し、平成11年度からは競争的な研究費である文部省科学研究費特定領域研究(B)の補助の基に「日米共同研究による都市地震災害の軽減」として、平成15年までの5年間の研究を新しく発足することとなった。

(b)研究の方法
平成11年度からの特定領域研究では、全国の大学と協力しつつ研究課題に関する日米間の入念な討議を経て、米国の大学との緊密なパートナーシップのもとに、5研究項目を設定した。各研究項目には、2つの計画研究が設定されている。この研究には、研究分担者と研究協力者を含めて全国の大学から、合計約100名の研究者が参加している。

(c)研究成果の概要
 この研究では、都市地震災害の軽減に関する日米間の共通の課題解決に向けて、新たな研究課題を、決められた期間内に推進し達成することを目的としている。前述の各計画研究の大半については米国側の対応する研究課題がNSFによって採択されている。
この共同研究を有効に機能させるための支援活動を行うと共に、研究成果を取りまとめ、日米両国へは勿論、国際的な場で都市地震災害の軽減に貢献する活動を行うために総括班を設け、以下のような活動を行っている。1)総括班連絡委員会:京都及び東京で年3回開催する。2)コーディネイション委員会:米国側コーディネイション委員会と合同の委員会を年に1回、日米で交互に開催する。3)ワークショップの開催:各計画研究において、米国側の対応研究者との間で適宜ワークショップが開催されている。4)若手研究員の交流:日米共同研究の成果を挙げるうえで、若手の研究者が共同研究のパートナーである米国の研究機関に1ヶ月程度の期間滞在して共同研究に従事する事がきわめて効果的である。これは各計画研究の状況を考慮して必要なテーマについて重点的に実施することが重要である。平成12、13年度には総括班経費の中に若手研究者派遣経費を計上し、毎年7名程度の若手研究者を米国に派遣してきた。また、この特定領域研究は3年目の中間評価でA'の評価を得ており、各計画研究間の情報交換を緊密にし、研究の重複を避けると共に、日米間で新しく必要とされるようになった研究項目に関する意見交換を行っている。
 米国側との共同シンポジウムに備えて平成13年4月に日本側研究者だけのシンポジウムを開催し、各計画研究の調整を計ると共に共同研究の意義を確認した。また、日米共同研究の参加者が一同に会し、研究成果を発表するためのシンポジウムを平成13年8月に米国シアトルにおいて開催した。

(d)成果の公表
研究の成果については総括班及び各計画研究でWork Shop、シンポジウム等を開催してプロシーディングスとして纏めており、また総括班の中に設けられている広報委員会を中心にホームページで情報の提示を行っている。

−開催されたワークショップ一覧−
総括班:
U.S.-JAPAN Grantees Meeting ,22,March, 2000, Berkeley;文部科学省特定領域研究(B)「日米共同研究による都市地震災害の軽減」第1回国内ワークショップ5-6,April,2001;U.S.-JAPAN JOINT WORKSHOP AND THIRD GRANTEES MEETING U.S.-JAPAN COOPERATIVE RESEARCH ON URBAN EARTHQUAKE DISASTER MITIGATION, 15-16, August 2001, University of Washington, Seattle,
1:
US-Japan Cooperative Research for Urban Earthquake Disaster Mitigation Workshop on Prediction of Strong Ground Motions in Urban Regions July 1, 2000, Tokyo
US-Japan Cooperative Research for Urban Earthquake Disaster Mitigation 2nd Workshop on Prediction of Strong Ground Motions in Urban Regions June 9, 2001, Tokyo
1-2:
7th U.S-Japan Workshop on Earthquake Resistant Design of Lifeline Facilities and Countermeasures against Liquefaction, August 1 6-17, Seattle, USA, 1999
2-1:
The First U.S.-Japan Workshop on Performance -Based Earthquake Engineering Methodology for Reinforced Concrete Building Structures, Maui, Hawaii, September 1-3, 1999
The Second U.S.-Japan Workshop on Performance -Based Earthquake Engineering Methodology for Reinforced Concrete Building Structures, Sapporo, Hokkaido, September 11-13, 2000
The Third U.S.-Japan Workshop on Performance -Based Earthquake Engineering Methodology for Reinforced Concrete Building Structures, Seattle, Washington, August 16-18, 2001 
3:
The Third Workshop on Structural Health Monitoring, Sept. 12-14, 2001, held at Stan- ford, CA, USA.
3-1:
US-Japan Workshop on Smart Structures for Improved Seismic Performance in Urban Regions August 14, 2001
3-2:
Third US-Japan Workshop on Non-linear System Identification and Health Monitoring, USC, Oct. 19-20, 2000
The First US-Japan Joint Workshop on Life Cycle Cost Analysis and Design of Infrastru- cture Systems, Aston Hotel at the Executive Center, Honolulu, Hawaii, Aug. 7-8, 2000
US-Japan Workshop on Smart Structures for Improved Seismic Performance in Urban Regions, Seattle, Aug. 14, 2001
4-1:
US-Japan Workshop on Disaster Risk Mana- gement for Urban Infrastructure Systems, Kyoto, May 15-16, 2001
4-2:
Joint Workshop on US-Japan Cooperative Research in Urban Earthquake Disaster Mitigation Risk Analysis and Advanced Technologies for Infrastructures, Califor- nia, January, 6-7,2000
Joint Workshop on US-Japan Cooperative Research in Urban Earthquake Disaster Mitigation Risk Analysis and Advanced Technologies for Infrastructures. Califor- nia, January, 8, 2001 
5:
24th Annual Workshop on Hazards Research and Applications, July, 1999
25th Annual Workshop on Hazards Research and Applications, July, 2000
第1回比較防災学ワークショップ, January,2001
26th Annual Workshop on Hazards Research and Applications, July, 2001


3.5.3 GAME 国際共同研究「GAMEXアジアモンスーンエネルギー水循環観測研究計画」

研究代表者 
 池淵周一(水資源センター 教授)
 石川裕彦(大気災害部門 助教授)

(a)研究の目的・意義及び計画の概要
 モンスーンアジアに住む人々に必要な水は、モンスーンに伴う地域・流域の水循環に依存している。この地域の水循環が、どのような機構で調整されているかを解明することは、アジア地域での人間活動の基盤としての水資源の変動機構を明らかにし、水コントロールの基礎的理解を得る上でも非常に重要である。
 水循環系はまた、大気での雲・降水過程、地表面での蒸発散、積雪・融雪、凍土過程などを通して、大気・地表面系のエネルギーの流れとその変動に関するフィードバックを担っており、気候変動の機構解明や予測のためのモデリングにとっても、水循環のすべての過程の定性的・定量的な理解は不可欠である。アジアモンスーンは、その巨大なエネルギー・水循環を通して、地球気候システム全体の変動にも大きな影響を与えており、アジア・ユーラシア大陸とその周辺海洋を含む大気・海洋・陸面系での水循環過程の解明は、アジアのみならず、地球規模での気候変動の機構解明にとっても非常に重要な課題である。
 このような問題意識から、アジアモンスーンの変動、およびアジアモンスーン地域の水資源、水災害に関わる水循環変動の季節予測の基礎となる、大陸スケールでの大気・陸面系でのエネルギー・水循環過程の実態解明およびそのモデリングを目的にしている。 (b)GAME-HUBEX
 HUBEXでは、メソスケール雲・降水システムのエネルギー・水循環過程のメカニズム研究に加え、集中観測と4次元データ同化による淮河流域とその周辺域の気象・水文データベースの構築が主要研究課題となっている。
 陸面過程モデル(SiBUC)による陸面データ同化のための気象強制力として、また大気-陸面結合モデル(JSM-SiBUC)による領域4DDAの検証用として利用するために、HUBEX-IOPで取得された気象・水文観測データ、衛星観測データを用いて、時・空間的に均質な気象メッシュデータセットを作成した。特に、日射量の推定にGMSデータを用いることで、日積算の日照時間から推定する場合に比べて、日射量の日変化の再現性や推定誤差が大幅に改善された。
 淮河流域の土地利用/植生タイプの情報として USGSが作成した土地利用データを使用してきたが、実際は畑作地帯である淮河流域北部の土地利用の大部分が水田と判別されており、熱収支算定において蒸発散を過大に見積もる原因となっている。そこでNOAA-AVHRRのNDVIデータを用いて改めて淮河流域の水田と畑地の判別を行い、淮河流域内の農耕地を4つ(1期作水田、2期作水田、冬小麦+夏大豆、冬小麦+夏とうもろこし)に分類した。
 さらに、モデル内における水田の取り扱いは非常に簡単なものであったため、琵琶湖プロジェクトで開発してきた水田スキームを淮河流域にも適用した。この水田スキームは水面が存在する場合の水深と水温を状態変数に加えたものである。また、それぞれの作物に関して需水量データから灌漑用水量を決定するルールを設定し、陸面モデル上で実現した。
 その結果、モデルで再現された灌漑の様子は文献の記述に良く対応し、蛙埠上流域(121,330ku)に関する水収支ではモデルで算定された流量と観測流量がよく一致した。ただし、モデルで予測された灌漑用水量は流域平均で約250mmであり、これを実現するにはダムやため池等で期間外の雨量を貯留しておくか、もしくは流域外から導水しなければならない。モデルでは最適な条件を満足するように灌漑水を給水する設定となっており、流域全体としてそのような配水が可能であるかのチェックをすることが今後の課題である。  一方、大気-陸面結合モデル(JSM-SiBUC)を用いた研究では、GAME再解析データあるいは全球客観解析データを初期値境界値として1998年IOP期間の様々な降雨事例について、数値シミュレーションを実施し、地上観測データや衛星観測データを用いてモデルの再現性の確認や問題点を検討している。また、現状の土地利用を用いた計算と土地利用を変化させた場合の計算を比較して、地表面状態が梅雨前線の活動に及ぼす影響を検討している。
(c)GAME-Tibet
大気災害部門では、HEIFE(1989〜1993), AECMP(1994〜1995)等の中国における観測研究を共同で実施してきた蘭州高原大気物理研究所をカウンターパートとし、岡山大学、筑波大学、長岡技術科学大学の研究者と協力して観測を実施した。チベット高原観測は中国気象局が国内プロジェクトとして実施したTIPEX(Tibetan Plateau Experiment)とも連動して実施された。
 1995年のAECMPの終了時に、中国甘粛省の河西回廊地域に展開していた観測設備を、一部を残して撤収しGAMEに備えた補修を開始した。1996年夏には、高原北麓のゴルム(格納木)から高原中部のナチュ(那曲)まで踏査し、観測地点の予備調査を実施した。1997年夏には、青蔵公路沿いの4地点(北から、D66, 沱沱河、D110、MS3608)に自動気象観測装置を設置し、自動気象観測を開始した。また、高原中部のアムド(安多)に14mの気象鉄塔、乱流輸送計測装置、放射計測装置、観測小屋を設置し、観測拠点とした。
1998年には、5月中旬から9月中旬までの4ヶ月間に渡り集中観測を実施した。自動計測装置による観測に加え、アムドでは4ヶ月に渡りほぼ連続して大気乱流の観測を行い、膨大な乱流データを得た。これらのデータから、陸面から大気への顕熱と潜熱の輸送量を算出した。この乱流観測データとタワー観測データ、放射観測データを合わせて解析し、地表面熱収支の評価を行った。集中観測では、これらの観測の他、ゾンデによる高層データ観測、3次元ドップラーレーダ観測、GPS観測、土壌水分観測などが実施され、これらのデータを総合した、大気陸面相互作用の研究が進行中である。これまでの成果は、1999年1月11〜13日に中国西安で開催された第1回GAME/Tibet 国際WS、1999年6月16〜19日に北京で開催された第3回GEWEX国際会議、2000年7月20〜22に中国昆明で開催された第2回TIPEX-GAME/Tibet国際WS等の国際会議で発表された。また、1997年に実施された予備観測のデータ、1998年の集中観測のデータは、他の観測グループのデータとともにCDROM版が作成されているとともに、webで公開されている。
 集中観測期間終了後は、自動気象観測所4地点とアムドサイトの観測を継続し、データを蓄積した。これらの観測結果により、2000年夏までのフラックス算定が行われている。さらに、これ以降、別途予算により観測を継続し、2002年夏までのデータが蓄積されており、年々変動の様子が明らかになりつつある。


3.5.4 IHP(国際水文学計画)

1965年から1974年に実施された国際水文学十年(International Hydrological Decade,IHD)を契機として、京都大学防災研究所は、大戸川流域、荒川流域などを試験流域として降水・土砂の流出機構を研究してきた。このIHDを引き継いで1975年から実施されることになった国際水文学計画(International Hydrological Programme, IHP)は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の科学プログラムの一つである。数年ごとの中期計画を政府間理事会において策定し、全世界的な規模で水問題の研究ならびに教育(capacity building)を行っている。防災研究所では、水資源研究センターの池淵周一教授および水災害研究部門の寶馨教授が、日本ユネスコ国内委員会自然科学小委員会IHP分科会の調査委員(いわゆるユネスコIHP日本国内委員会の委員)を長年務めており、寶教授は、2年ごとにユネスコ本部で開催されるIHP政府間理事会に日本政府代表として近年毎回(1996, 1998, 2000, 2002)出席している。第6期計画(2002〜2007)の策定においても、タスクフォース委員会に参画し、水防災・水環境課題を研究計画の中に位置づける役割を果たした。平成11年(1999年)からは、IHP東南アジア太平洋地域運営委員会(RSC-SEAP)の事務局長(Secretary)を努め、地域の研究・教育活動に大きな貢献をしている。
平成12、13年度は、第5期計画(1996〜2001)の最後の2年であり、河川流況のデータベースおよびネットワーク構築とそれを利用した洪水・渇水研究を推進するFRIEND(Flow Regimes from International Experimental and Network Data) のアジア太平洋地区での取りまとめを行った。その成果は、Asian Pacific FRIEND Report for Phase 1(1997〜2001), IHP Technical Document No. 9, 2002, UNESCO Jakarta Office として出版されている。このアジア太平洋FRIENDの活動は、文部省(現・文部科学省)科学研究費補助金基盤研究(A)(2)「水・人間・地球の相互作用を考慮した持続可能な水資源環境に関する国際水文学研究」(課題番号:10044156, 代表:池淵周一教授)(平成10〜12年度)および科学研究費補助金基盤研究(A)(1)「アジア太平洋における水資源環境の評価・管理・対策に関する研究」(課題番号:13374001, 代表:池淵周一教授)(平成13〜15年度)によって財政的基盤の一部が負担された。また、IHPの新しい研究プロジェクトである環境・生命・政策のための水文学計画 HELP (Hydrology for Environment, Life and Policy) において、野洲川流域を対象として活動を開始している。これについては、立川康人助教授、寶 馨教授、椎葉充晴教授(防災研究所研究担当教官、工学研究科教授)が、防災研究所一般共同研究の枠組みの支援を得て研究推進を行っている。
さらには、IHPの活動報告誌(IHPニューズレター)を発行する役割を平成13年(2001年12月発行分)より防災研究所が担うようになった。このように、国内外のユネスコの水関連研究のイニシアティブをとっており、その活動は内外に高く評価されているところである。


3.5.5 IGCP-425 UNESCO-IUGS 国際地質対比計画「文化遺産と地すべり災害予測」

研究代表者
 佐々恭二(地盤災害研究部門 教授)

(a)共同研究の経緯
UNESCO(国連教育科学文化機関)が実施している研究プログラムの中に、IUGS(International Union of Geological Sciences:国際地質学連合)との共同プロジェクトであるIGCP (Internatio-nal Geological Correlation Programme: 国際地質対比計画)がある。京都大学防災研究所では、1991年より文部省のIDNDR特別事業の一環として、「中国西安市の楊貴妃の宮殿(華清池)の地すべり災害予測」の研究を実施し、1997年7月には国際地すべり災害予測シンポジウムを西安市に於いて実施した。このプロジェクトの成果は、危機に晒されている文化遺産を守るために事前に地すべり災害を予測し、何らかの災害軽減対策を実施することが現実的に可能であることを示したものであり、これをさらに推進するとともに、世界的なレベルで推進すべきであるとの合意に達し、1997西安アピール「西安市の文化遺産(華清池宮殿)の保護および地すべり災害予測と危険度軽減の世界的推進〜危機にさらされた西安市の文化遺産の保護と世界的な地すべり災害予測と軽減のための研究の推進」を発表した。そして、このアピールを実現するための一つの手段としてIGCPプロジェクトに申請した結果、1998年2月の科学委員会で1998〜2002年の5カ年のプロジェクトとして採択された。プロジェクトの正式名称は、IGCP-425「文化遺産及びその他の社会的価値の高い地区における地すべり災害予測と軽減に関する国際共同研究(略称:文化遺産と地すべり災害予測)」である。

(b)研究目的
(1)20世紀は経済の拡大と開発の世紀であったが、非経済的な価値を持つ自然環境や文化遺産などの保全に必ずしも十分な注意が払われてこなかった。今日、世界の指導的立場にある経済先進国においては、さらなる経済発達もさることながら、過去の人々から受け継がれてきた歴史的な文化遺産の将来の子孫への継承が、大きなテーマとなっている。これらの文化遺産は、一旦破壊されれば、いかなる費用をかけても修復が不可能であり、その損失は、その国、地域の人々のみならず、人類全体の心の財産の喪失である。 (2)文化遺産は、風化、侵食、人間自体による破壊などの他に、地すべり、斜面崩壊、土石流、岩盤崩落、地盤液状化・水平流動など各種の土砂災害(英語でのLandslideに対応する)による壊滅的な破壊の危険性に晒されているものが少なくない。世界第2位の経済大国であるとともに豪雨・地震の多発する急峻な傾斜地に1億を越える人々が居住している日本は、土砂防災の研究において世界の最先進国であり、その国際貢献が強く求められている。
(3)IGCP-425は、1994〜1998会計年度に京都大学防災研究所が、斜面災害関連の他の大学・国立研究機関・調査会社の協力を得て実施してきた「IDNDR特別事業:中国及びインドネシアにおける自然災害の予測とその防御に関する研究」の中の1プロジェクトである「C-2:華清池(楊貴妃の宮殿)の地すべり災害予測」の研究努力と成果が、世界的に高く評価された結果である。この研究で培った国際共同研究の経験と、その海外からの評価に基づいた国際的ネットワークを基礎として、防災研究所(佐々恭二)が提案したものであり、「文化遺産地区における土砂災害の予測とその防御に関する研究」は、21世紀の防災研究の先駆けとなるものであり、日本政府ことに文部省・大学の国際貢献として極めて重要なものである。この研究は、一体として総合的に実施するが、主要な研究内容は下記の4項目である。
1)危険斜面の抽出と前兆現象の判定法の研究
2)崩壊斜面の規模と危険度を判定するための高精度かつ耐久性の高い斜面監視システムの開発
3)実験・計測に基づいた信頼性のある地すべり発生・運動予測法と危険度評価法の研究
4)経済的かつ実用的な斜面保全技術の開発と
防災対策の研究

(c)研究の方法
IGCP-425は、各サブプロジェクト実施グループが、おのおのの経費で研究を実施し、年に1度、各グループが集まり、研究についての報告会を実施するものである。
これまで開催されたIGCP-425の会議及びシンポジウムは、1998年9月22〜24日カナダ・バンクーバー(Hyatt Regency Hotel)、同11月30日〜12月1日(東京・カナダ大使館)、1999年9月20〜24日(パリ・ユネスコ本部)、2000年8月8〜9日(ブラジル・リオデジャネイロ)であり、最新のものが2001年1月15〜19日に日本学術会議において、ユネスコ、IGCP-425、IUGS共催、日本ユネスコ国内委員会、外務省等の後援を得て、シンポジウム「地すべり危険度軽減と文化・自然遺産の保護」である。参加するサブグループは次第に増大し、以下の31件に達している。
List of IGCP-425 Sub-projects:
1)Research on the Slope Stability of the Block II of the Lishan Landslide, Lintong County, Xian, China  QingJin YANG and Baoer SONG (Lishan Landslide Prevention and Management Office, China)
2)The Archaeological Site of Delphi, Greece −A Site Vulnerable to Earthquakes and Landslides−        Paul MARINOS (National University of Athens, Greece)
3)Slope Stability Conditions of the Rockmass at the Foundation Areas of the Monasteries of Mount Athos, in N. Greece Basile CHRISTARAS (Aristotle University of Thessaloniki, Greece)
4)Conservation from Rockfall of the Engraved Wall in the Fugoppe Cave, Hokkaido, Japan Hiromitsu YAMAGISHI (Geological Survey of Hokkaido, Japan) Tadashi YASUDA (Public Consultant Co., Ltd., Japan) Hideji KOBAYASHI (Shin Engineering Co., Ltd.,Japan)
5)Slope Deformation and Other Geohazards Endangering the Stability of Historic Sites in the Western Carpathians   Jan VLCKO (Comenius University, Slovakia)
6)Landslide Hazard and Risk Assessment in Archaeological Sites    Paolo CANUTI (University of Firenze, Italy)
7)The evaluation of the risk of deep-seated mass movements to the cultural heritage sites of Hallstatt-Dachstein/Upper Austria Michael MOSER(University of Erlangen) Kurt A. CZURDA (Karlsruhe University,Germany)
8)Geotechnical Landslide Risk Analysis around and inside some Egyptian Historical Monuments M. Yasser EL-SHAYEB & M. Thierry VERDEL (Laboratoire Environnement, Geomechanique, et Ouvrages (LAEGO), France)
9)Landslide Hazard Assessment for the Places of Historical Heritage in the north-eastern Azov Sea coastal region (Taganrog city and the area of ancient Greek town of Tanais, Rostov district, Russia) Eugene A. VOZNESENSKY (Moscow State University, Russia) Oleg V. ZERKAL (Federal Center for Geoecological Systems, Russia)
10)Assessment and Mitigation of the Landslide Hazard to Cultural and Historical Monuments in the Central Russia (the Golden Ring of Russia)         Victor I. OSIPOV (Institute of Environ-mental Geoscience, Russia)
11)The Present and Past Geomorphologic Hazards in The Archeological Sites of Sicily and Calabria (South Italy) G. Marino(SORRISO-VALVO, IRPI, Italy)
12)Development of Quantitative Prediction Models for Landslide Hazard Chang-Jo F. CHUNG (Geological Survey of Canada, Canada)
13)Rice-Paddy Terrace and Landslides Toshitaka KAMAI(Kyoto University, Japan) Haruo SHUZUI(Nippon Koei Co. Ltd., Japan)
14)Quantitative Analysis of Natural Landslide Hazards Affecting the Rocky Mountain Parks of Canada   Oldrich HUNGR   (University of British Columbia, Canada) Stephen G. EVANS   (Geological Survey of Canada, Canada)
15)Protection of Inca Cultural Heritage on Landslide Zones at Cusco, Peru Raul CARRENO(PROEPTI-EPFL, Peru)
16)Landslide Risk Evaluation for the Protection of Cultural Heritage: Case of Old Quebec, Canada     Jacques LOCAT (Laval University, Canada)
17)Prediction of Rapid Landslide Motion for Lishan, China, Unzen, Japan  Kyoji SASSA (Kyoto University, Kyoto, Japan)
18)Seismogenic Landslides and Rockfalls in the Vicinity of the Horeseman of Madara (NEBurgaria) Margarita MATOVA & Gueorgui FRANGOV (Geological Institute, Sofia, Bulgaria)
19)Monitoring of a Large-Scale Landslide Threatening the Zentoku Historical Settlement in the Iya-Valley, Tokushima, Japan.    Hiroshi FUKUOKA, Kyoji SASSA (Kyoto University, Kyoto, Japan)
20)Development of a Spatial Database System for Landslide Information Management and Analysis Venkatesh RAGHAVAN, Shinji MASUMOTO Kiyoji SHINO(Osaka City University, Japan) Takashi FUJITA (Osaka Institute of Technology, Japan)
21)Landslide Hazard and Mitigation Measures in the Area of Medieval Citadel of Sighisoara.    Christian MARUNTEANU, (University of Bucharest, Romania) Mihail COMAN,(ISPIF, Romania)
22)Disaster of Rock Avalanches and Landslides in Tianchi Lake Tourist Area of Changbai Mountain (Volcano), Northeast China. Binglan CAO(Jiling University, China)
23)Guidelines for the Safeguard of Cultural Heritage against Natural Risk Claudio MARGOTTINI (ENEA(Italian Agency for New Technology, Energy and Environment), Italy)
24)Rock Slope Monitoring for Environment− Friendly Management of Rock Fall Danger. Jiri ZVELEBIL (Institute of Rock Structure and Mechanics, Academy of Sciences, Czech Republic) H. D. PARK (Seoul National University, Korea)
25)Slope Stability in a Context of Progre- ssive Environmental Change Edward DERBYSHIRE(University of London (UK)) Tom DIJKSTRA and Rens van BEEK (Coventry University (UK))
26)An Integrated Approach to Sustainable Management of Landslides Along the Black Sea Coast         Mihail POPESCU (Illinois Institute of Technology, USA/ Univ. of Civil Eng., Romania)
27)Protection of Cultural Heritage Sites from Landslide in the Hindu Kushi- Himalayan Region            Li TIANCHI (International Centre for Integrated Mountain Development, Nepal)
28)Assessment of Mass Movement Hazard to the Natural Heritage Sites of Akha Area, Northern Tehran, Iran   Zieaoddin SHOAEI (Soil and Water Conservation Center, IRAN)
29)Monitoring Unstable Cultural Heritage Sites with Radar Interferometry Paolo CANUTI and Carlo ATZENI (University of Firenze, Italy) Dario TARCHI,(Institute for Systems, Informatics and Safety, Italy)
30)Landslide Hazard and Mitigation Measures in the South Gippsland Highlands, Victoria, Australia           John BRUMLEY (RMIT University, Australia)
31)Landslide Hazard Mapping along the Pri- thiwi Highway to Protect Seven World Heritage Sites in Kathmandu Valley, Nepal Tiwari BINOD (Disaster Prevention Technical Centre, Nepal) Hideaki MARUI(Niigata University, Japan)
Note:Sub-Projects No.1-16 は1998年12月の東京シンポジウムのに採択。Sub-Projects No.17-24は,1999年9月のUNESCO本部で開催した会議で採択。Sub-Projects No.25-31は、2001年1月の東京シンポジウムで採択。

(d)研究成果
(1)国際共同研究の全体としての具体的な成果の一つは、ユネスコと防災研究所間の研究協力覚え書き「21世紀の最初の四半世紀における環境保護と持続できる開発の鍵としての地すべり危険度軽減と文化・自然遺産保護の為の研究協力地すべり危険度軽減と文化・自然遺産の保護」の締結である。また、この合意書にそって開催した東京シンポジウムにおいて、ユネスコ地球科学部長、ユネスコ文化遺産部主幹、IUGS(国際地質学連合)会長、IAEG(国際応用地質学会)会長、ISSMGE(国際地盤工学会)会長、ペルー文化庁長官などを含むIGCP-425に結集した研究者が、この研究をさらに発展させる枠組みとして、防災研究所を事務局として、ユネスコと国際地質学連合(IUGS)を中核とする各種の地すべり関連研究組織の連合体としての「国際地すべりコンソーシアム」の設立に合意したことである。これまで地すべり(landslides)に関する研究は、地形・地質・地球物理、土木・鉱山・土質、農学・林学など理工農の種々の分野で研究されていたものの総括的な国際組織はなかった。本組織は、21世紀における都市開発、山地開発の進展にともなってさらに激化すると想定される斜面災害の予測と防御を国際的に協力して推進するものであり、まさに防災研究所の使命と合致するものである。
(2)本研究の実施により、文化遺産地区あるいはその裏山など文化遺産に影響を及ぼす大規模地すべりの予測が、詳細の地表変動計測と地すべり再現試験による土質試験により可能であることが、次第に認知されてきたことである。そして、防災研究所が中心として実施してきたインカの世界遺産「マチュピチュ」の地すべり危険度予測を国際地すべりコンソーシアムの最初の重点研究課題に選択した。
(3)平成12、13年度の主要な研究成果は、IGCP-425グループが組織した下記の2回のシンポジウム論文集内に集約される。
Sassa, K. (ed.):Proceedings of the Interna-tional Symposium "Landslide Risk Mitiga-tion and Protection of Cultural and Natural Heritage,"Tokyo, ISBN 4-9900618-3-7 C3051, 268 pages. 2001.
Sassa, K. (ed.):Proceedings of the Interna-tional Symposium "Landslide Risk Mitiga-tion and Protection of Cultural and Natural Heritage,"Kyoto, ISBN 4-9900618-3-7 C3051, 750 pages. 2002.

3.5.6その他の国際共同研究 「大規模高速地すべりの発生・運動機構に関するカナダ−日本共同研究」

研究期間:平成10〜20年
研究組織 
研究代表者
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 Oldrich HUNGR(ブリティッシュコロンビア大学 助教授)
 Peter BOBROWSKY(カナダ地質調査所地すべり被害軽減計画長)

(a)研究の目的
(1)地震や豪雨によって引き起こされる大規模高速地すべりの発生・運動機構を調べ、特に人口急増地域の土地利用計画、災害軽減に必要な地すべり災害予測の技術開発を行う。(2)日本、カナダの主要な地すべり研究者、大学院生、学生の交流を伴う人材交流、(3)地すべり研究のための実験、共同現地調査、合同研究会開催、人物交流、研究情報の交換。

(b)成果の概要
2001年8月25〜26日に佐々が国際地盤工学会(ISSMGE)地すべり技術委員会(TC-11)とトルコで開催した"Conference on Transition from Slide to Flow : Mechanisms and Remedial Measures"において、O. Hungrと流動性崩壊発生機構の研究の必要性についての議論を行い、事例の紹介とメカニズムについての研究の現状について意見交換した。2001年1月に東京・日本学術会議会議室で開催し、翌年2002年1月に京都で開催した「地すべり危険度軽減および文化・自然遺産の保護のシンポジウム」において、P. Bobrowsky氏がカナダ側代表として参加し、国際斜面災害研究機構(ICL)の必要性について議論を行い、その設立に協力した他、2002年10月にパリのユネスコ本部で開催された第1回代表者会議(1st BOR/ICL)に至るまで、精力的に国際斜面研究計画等のプログラムの企画等に協力した。1st BOR/ICLにおいてP. Bobrowsky氏は副会長に選出された。


「文化遺産地区における地すべり災害予測の研究」
研究期間:平成11年4月〜14年12月
研究組織 
研究代表者
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授)
所内担当者
 千木良 雅弘(京都大学防災研究所 教授)
 釜井俊孝(京都大学防災研究所 助教授)
 福岡 浩(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 松浦晃一郎(ユネスコ 事務総長)
 Galia SAOUMA-FORRERO(ユネスコ文化遺産部 中南米 カリブ地域 主幹)
 Paolo CANUTI(イタリア・フローレンス大学教授)
 Edward DERBYSHIRE(英国・ロンドン大学、ユネスコ国際地質対比計画委員長)

(a)研究の目的
 「環境と持続可能な開発」についての問題は、21世紀に新たなピークを迎える。世界の人口は次世紀の最初の四半世紀で倍増すると推定されている。この人口増加と避けられない都市化と山地開発の進展を受け入れるためには、地すべり危険度の軽減と文化・自然遺産及びその他の脆弱な(人類にとっての)宝の保護が不可欠であり、そのための研究、調査の拡大・強化に向けた世界的な協力が緊要であり、国際的な研究ネットワークの確立を目指す。

(b)成果の概要 
1999年12月にユネスコ事務総長と京都大学防災研究所長の間で、合意覚え書き「21世紀の最初の四半世紀における環境と持続できる開発のための鍵としての地すべり危険度軽減と文化・自然遺産保護のための研究の推進に関する協力」が交わされた。この合意を推進するための中核として、まず、多国間あるいは複数の二国間、また、ユネスコを介しての国際共同研究として、どの機関のどのようなフレームが実施可能か予備的調査と資料収集を行った。この研究計画の研究上の中核である地すべり発生運動予測のための土質試験法、地すべり危険度監視法、危険にさらされた文化遺産の調査法について、日本の実例をもとに現在のレベルをまとめるための調査研究を以下の2カ所について継続して実施している:(1)天守閣が現存する山城として有名な岡山県高梁市の国史跡・備中松山城(基礎岩盤が変形し始めている)、(2)平家の落ち武者の部落であり、葛と天然の立木をそのまま利用したつり橋で有名な徳島県西祖谷山村の大規模な結晶片岩地すべり「善徳」。 2001年1月と2002年1月に佐々が中心となって斜面災害危険度軽減と文化・自然遺産の保護に関する国際シンポジウムを国内で開催した際に、ユネスコおよびユネスコ・国際地質学連合の共同事業であるIGCP-425と連携して研究発表およびビジネスミーティングを開催した。


「中国西安市華清池の地すべり災害予測と軽減に関する研究
(京都大学防災研究所と西安市建設委員会との共同研究推進に関する合意書) 」
研究期間:平成11年6月〜16年3月
研究組織
研究代表者
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授)
所内担当者
 古澤 保(京都大学防災研究所 教授)
 島田充彦(京都大学防災研究所 教授)
 福岡 浩(京都大学防災研究所 助教授)
 古谷 元(京都大学防災研究所 非常勤研究員)
 汪 発武(京都大学防災研究所 非常勤研究員)

(a)研究の目的
 中国西安市周辺には、近畿地方と同じく数多くの活断層が走っており、西安市郊外にある楊貴妃の宮殿「華清池」は近年の地下水汲み上げによる地盤沈下等により、華清池裏山が大規模岩盤地すべりの前兆段階にあり、地震、豪雨などによる滑落の危険性があることが8年間の日中共同研究で推定された。本研究はユネスコ地質対比計画IGCP-425「地すべり災害予測と文化遺産」の一環として、この華清池裏山斜面において、現場の調査用トンネル内から採取した試料および、岩盤崩壊が発生した場合の被災域と推定される地域の土砂試料を日本に運搬し、リングせん断型地すべり再現試験機により、大規模崩壊の発生条件、運動範囲の推定を行っている。また、最も活発な変位を示している斜面部分に順次、電子伸縮計を設置し、自動記録データを現地の観測所と日本へ自動転送するシステムを開発・運用し、準リアルタイムでの斜面の危険度監視と解析を行う。

(b)成果の概要
 平成11年6月、西安市人民政府建設委員会委員長他2名を招聘し、京都大学防災研究所長他と共同研究合意書の調印式を行った。また、長期招聘した防治驪山滑坡弁公室職員1名に観測データの処理法に関する技術移転を行った。地すべりデータ送信装置の開発を行い、防治驪山滑坡弁公室に依頼して電源および電話設備等、設置に必要な準備を進め、平成11年11月と12年1月に電子式伸縮計の自動観測装置を長スパン伸縮計に併設する作業を行い、13年度に電子伸縮計を設置し、全スパンについて電子化が完了した。ペン書きタイプに比べ、時間分解能の向上、停電や強風による揺らぎの低減が実現し、制度が向上した。また、岩盤崩壊が発生した場合の運動範囲の推定を行うため、被災域と推定される地域の土砂(黄土)試料を日本に運搬し、リングせん断型地すべり再現試験機を用いて非排水載荷試験を行い流動化特性を調べた。これらの成果が評価され中国政府はアンカー工を主体とした一部ブロックの抑止工を施工し始めている。また、研究成果の一部は平成13年1月(日本学術会議)と14年1月(京都大学)に開催されたシンポジウム「斜面災害危険度軽減と文化・自然遺産の保護」で発表され、国際的に高い評価を受けたが、平成14年11月に開催された国際斜面災害研究機構・第1回代表者会議(第1回IPL委員会)において会員プロジェクトとして認定された。


「マチュピチュ・インカ遺跡の地すべり災害予測」
研究期間:平成12年3月〜
研究組織
研究代表者
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授)
所内担当者
 福岡 浩(京都大学防災研究所 助教授)
 釜井俊孝(京都大学防災研究所 助教授)
 Romulo MUCHO(ペルー地質金属冶金研究所(INGEMMET) 所長)
研究協力者
 Luis GMO. LUMBRERAS(ペルー文化庁 長官)
 Edwin BENAVENTE (ペルー文化庁クスコ支所技師長)
Jorge W. PACHECO del CASTILLO(マチュピチュ合同管理事務所 所長)
 Raul CARRENO (Grudec Ayar 代表)
研究分担者
 石塚 睦(ペルー地球物理学研究所 教授)
 守随治雄(日本工営大阪支店 課長)

(a)研究の目的
 マチュピチュ遺跡は大規模な古地すべりの地形の上に建設され、極めて不安定な地盤の上に形成されている。また、遺跡周辺は、地すべり、岩盤崩落、河川浸食等により、観光資源が危機にさらされており、観光客への直接的被害も懸念されている。また、マチュピチュへの観光アクセスは、極めて未整備である。本開発調査は、ペルー国の貴重な観光資源であるマチュピチュ遺跡、その周辺地域の保全と観光客の安全確保、及びマチュピチュへのアクセスの大幅な改善計画を立案するための調査と遺跡の崩壊の前兆現象をとらえるための観測設備の設置を実施する。

(b)成果の概要
 2000年3月に佐々、福岡、守随の3名がペルーに赴き、ペルー文化庁(INC)、ペルー自然資源庁(INRENA)、ペルー地球物理学研究所、PROEPTI(傾斜地保全NGO)および日本大使館と共同研究の打ち合わせを行った。国土地理院等から航空写真、地形図、地質図等の資料を収集するとともに、地上踏査を行い、地すべり活動を起こしていると見られる地域に伸縮計測線を設置するための準備作業を行った。さらにヘリをチャーターしてINCに飛行許可をもらった上で空中からマチュピチュ遺跡周辺の地質地形調査を行った。空中写真より潜在地すべりブロックの判読を行い、当該地すべり地の発達過程を推定し、今後起こりうる斜面不安定の予測を行った。2000年10月、2001年11月、2002年9〜10月に再訪し、基盤岩を含む地形・地質調査、遺跡内での簡易型伸縮計の設置と観測、観測データの整理を行った。観測結果は明らかに降雨と関連した地盤変位が認められ、大規模地すべりの前兆現象の可能性が指摘された。研究成果の一部は平成13年1月(日本学術会議)と14年1月(京都大学)に開催されたシンポジウム「斜面災害危険度軽減と文化・自然遺産の保護」他で発表され、日本国内、ペルー国内はもとより、国際的に高い評価を受けた。2002年よりは、イタリアとチェコの地すべり専門家が加わり、各種計器を設置して合同の観測研究を開始し、国際斜面災害研究機構(ICL)による国際斜面災害研究計画(IPL)のCoordinating Projectとして認定された。ペルー政府および国連ユネスコも研究成果に高い関心を示しており、研究成果は佐々が会長をつとめるICLがとりまとめて報告する予定である。

「国際地盤工学会(ISSMGE)アジア地域技術委員会(ATC-9:文化遺産の地すべり災害からの保全)」
研究期間:平成11年4月〜
研究組織
研究代表者
 佐々恭二(京都大学防災研究所 教授)
(平成11〜14年3月)
所内担当者
 千木良 雅弘(京都大学防災研究所 教授)
 福岡 浩(京都大学防災研究所 助教授)
研究分担者
 Bhandari, R.K.(インド科学技術委員会委員長)
 Shoaei, Z.(イラン土砂保持流域管理研究センター センター長)
他、計13カ国35名

(a)研究の目的
 アジア地域において、人類が引き継いできた貴重な文化遺産をはじめとする自然遺産、歴史的な都市・集落など社会的価値の高い地域を地すべり(Landslides)から守るための調査・研究を行う。また、地すべり危険斜面の抽出と前兆現象の判定、斜面危険度監視システムの開発、地すべり運動予測法など、より信頼度の高い地すべり災害予測法の基礎的研究を行うとともに、アジア地域に適した実用的な災害予測と防御方法の開発を行う。

(b)成果の概要
 1999年9月にUNESCO-IUGS共同事業・国際地質対比計画(IGCP)425「文化遺産と地すべり」パリ会議(於:ユネスコ本部)を共催した。2000年1月に国内の地すべりの危機に瀕する文化遺産についての研究事例紹介と今後の活動方針を検討し実施中である。具体的には(1)アジア地域の地すべりの危機に瀕する文化遺産のリストを作成する、(2)2001年8月23〜24日にトルコ・トラブゾン市において自然・文化遺産と地すべりに関する国際会議"Field Workshop on Landslides and Natural /Cultural Heritages"を国際地盤工学会(ISSMGE)地すべり技術委員会(TC-11)と合同で開催し、論文集を発行した。2002年4月からは千木良が代表となった。


「地すべり地下水探査についての共同研究」
研究期間:平成11年〜
研究組織
研究代表者
 竹内篤雄(京都大学防災研究所 助手)
研究分担者
 丸井英明(新潟大学積雪地域災害研究センター 教授)
 古谷 元(新潟大学積雪地域災害研究センター教務補佐員)
 Shoaei, Z.(イラン土砂保持流域管理研究センター センター長)

(a)研究の目的
 1m深地温探査を乾燥地域における地すべり地に適用し地すべり活動に影響を与える地下水の状態を探査するとともに、地下水の水みちの調査法、地下水排除工の設計法を確立する。

(b)成果の概要
Rouldbar地すべり地にて1m深地温探査を適用した結果、当該地すべり地では半乾燥地域にもかかわらず、多数の流動地下水脈があることがわかった。また、長距離土砂流動が生じた原因はこのような土層内の水理条件の上に移動土塊の急速載荷に起因した過剰間隙水圧の上昇であるためであると推定された。


「バングラデシュ北東部における氾濫湖の消長に関する気象・水文学的研究」
研究期間:平成11〜13年度
研究組織
研究代表者
 岡 太郎(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 大久保 賢治(岡山大学環境理工学部 助教授)
 石井将幸(島根大学生物資源科学部 助教授)
 吉田 勲(鳥取大学農学部 教授)
 城戸由能(京都大学防災研究所 助教授)
 林 泰一(京都大学防災研究所 助教授)
 松本 淳(東京大学理学系研究科 助教授)
 寺尾 徹(大阪学院大学情報学部 講師)

(a)研究の目的
 バングラデシュでは国土の50%が標高7m以下の低平地である。これらの低平地には多数の河川が網目のように張り巡らされており、合流部には大小様々な氾濫湖(現地ではハオールと呼ばれている)が分布している。国内外で豪雨が発生するとガンジス・ブラマプトラ・メグナの三大河川を通して国外より膨大な洪水が長期にわたって流入するとともに、メガラヤ山脈などの国境沿いの高地(インド)より鉄砲水が押し寄せる。この時、氾濫湖の水位は異常に上昇し、氾濫湖は拡大して住宅地・農地を飲み込み甚大な災害をもたらす。一方、モンスーン季の降雨が平年規模の場合には、洪水は水資源・環境浄化・農業・漁業・船運・砂礫などの建築器材補給などの面で住民に多くの恵みをもたらしている。  バングラデシュの洪水対策を策定するためには、ガンジス・ブラマプトラ・メグナ河流域の気象概況・メガラヤ山脈の豪雨特性を解明するとともに、氾濫湖の消長過程を降雨規模と河川流入量を考慮して明らかにすることが必要である。
 本研究では、バングラデシュ及びインドアッサム・トリプラ・メガラヤ地方の気象特性を明確にするとともに洪水災害発生機構・洪水と住民生活との関連を究明し、同国の洪水・水資源・環境対策の基礎資料を得ることを目的としている。

(b)研究の概要
 次の4課題について調査研究を行った。
(1)南アジアの気象特性の解明
インド気象局等よりインド国内及び南アジアの気象資料を収集し、南アジアの気象特性を吟味するとともに、バングラデシュに隣接するアッサム・トリプラ・メガラヤ地域の豪雨発生機構を解明するための基礎資料を整備した。
(2)メガラヤ山脈南斜面の豪雨発生機構の解明
降水発生に密接に関連しているモンスーン気流・積雲対流活動の生成メカニズムを解明するために、ダッカにおいて1日4回のゾンデ観測を延べ50日間実施した。なお、バングラデシュ気象局は1日1回のゾンデ観測を行っている。その結果、気温変動は対流圏全層にわたってほぼ同位相であり、00Zと12Z頃極小と極大がそれぞれ現れ、とくに対流圏下層と対流圏界面直下で顕著であることなどが明らかになった。 (3)氾濫湖の消長に関する調査
バングラデシュの低平地には、ハオールと呼ばれる氾濫湖が多数分布している。バングラデシュ最大のハカルキハオールにおいてGPSとエコーサウンダーを用いてその規模と水深分布を測定した。その結果、氾濫湖は比較的浅くもっとも深いところで周辺の地表面より-7m程度であることなどが明らかになった。これらの資料は氾濫湖の開発・保全のために役立てられる。さらに、洪水流出・氾濫解析を行い同国の洪水発生機構とその対策について基礎資料を整備した。
(4)氾濫湖の資源的役割に関する調査
氾濫湖は資源供給・環境浄化・運輸等の面で重要な役割を担っている。今年度は氾濫湖及びその周辺部の漁業について聞き取り調査を行った。その結果、モンスーン季の最盛期には漁民一人の漁獲量は300TK〜3000TKであり、貴重な収入源になっていることが判明した(1USドル=50TK、1TK=約2円)。これらにより洪水対策の一層の難しさが理解できる。


「ジャワ・スマトラ三流域における総合的水・土砂管理のための水文・河川・海岸合同調査- セマラン、ブランタス、トバ流域を対象として -」
研究期間:平成12〜14年度
研究組織
研究代表者
 寶 馨(京都大学防災研究所 教授)
所内担当者
 中川 一(京都大学防災研究所 教授)
 山下隆男(京都大学防災研究所 助教授)
 立川康人(京都大学防災研究所 助教授)
 諏訪 浩(京都大学防災研究所 助教授)
 里深好文(京都大学防災研究所 助手)
 吉岡 洋(京都大学防災研究所 助手)
研究分担者
江頭進治(立命館大学理工学部 教授)
 藤田正治(京都大学農学研究科 助教授)
 田中丸 治哉(神戸大学自然科学研究科 助教授)
 市川 温(京都大学工学研究科 助手)

(a)研究の目的
 本研究は、水系一貫した水・土砂の総合管理と災害防止という観点から、インドネシアにおける3つの流域を対象に、降水流出、土砂生産・輸送ならびにこれらに伴う河床・海岸変動の予測・管理・災害防止に関する研究をさらに進展しようとするものである。すなわち、山地から河川さらには海岸という水系を一貫した形で捉え、各部分地域および各個別事象の相互関係を考慮するとともに、増加を続ける一方の人口問題をも考慮に入れ人間活動の影響をも取り込んで、総合的な水・土砂管理と災害防止のあり方を考究する。

(b)成果の概要
ブランタス川については、これまで開発してきたセル分布型の降雨・土砂・流出モデルをさらに精緻化し、斜面からの土砂の生産・堆積・流出の過程において斜面勾配や表面流速を考慮して土砂の生産、堆積を現実的に表現できるようにするとともに、このモデルを部分流域であるレスティ川に適用した。この結果を、土木学会(5月、9月)および水文過程のリモートセンシングとその応用に関するワークショップ(1月)で発表した。また、レスティ川とブランタス川本流の合流直後にあるサングルーダムの土砂堆積状況を調査し、共同研究者を招いてその予測と対策の方法について検討し、第9回世界湖沼会議(11月・大津)において発表した。
 スマラン地域については、海岸の土砂の状況と沿海の海流、河川からの流出の関係を調査するため、山下が9月にインドネシアを訪問し、海岸保全研究調査関係機関と研究打合せを行って今後の研究協力の体制と研究テーマの絞り込みを行った。また、12月に二つの機関から研究協力者を招いて、ジャワ島北側海岸の土砂流動の状況、総合的な土砂管理の方法について資料を収集し、セミナーを開催、研究討議を行った。
トバ湖流域については、11月に共同研究者を招いてトバ湖が抱える水・土砂の問題と流域管理の関係について研究打ち合わせを行い、その概要を第9回世界湖沼会議において発表した。さらに、寶と田中丸が2月に現地を訪問し、海外研究協力者とともに湖底地形の音波探知機による測深を行うとともに、湖から流出するアサハン川の発電施設、これによる電力を利用する下流のアルミニウム工場を訪問して、近年の湖水面の低下が、発電量およびアルミニウム生産量にどのような影響を及ぼしているのかについて調査・資料収集を行った。

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