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 3.3 研究集会


3.3.1特定研究集会
 防災研究所が主体的に研究課題を立案し全国の研究者に参加を呼びかけ、計画的に推進する研究集会である。当該年度内の開催が求められる。研究代表者は所内・所外を問わないが、前年度上半期に防災研究所所内で研究課題を募集する。企画専門委員会で審議し、優先順位を付して推薦候補課題を共同利用委員会に提示する。共同利用委員会で採択候補課題を選定し、その結果を教授会が受けて採択課題を決定する。なお、採択課題決定後、それぞれの課題について、追加の共同研究者を公募することとしている。
研究集会での発表講演を報告書にとりまとめ出版公表することを原則としている。出版公表には電子媒体を用いることを推奨している。

平成12年

(課題の選考概要)5件の応募を受けて、企画専門委員会では、防災研究所が主体的に開催すべきかどうか等の研究集会(特定)の主旨を確認し、個々の申請について審議したのち、評価を行い採択候補課題3件を選定した。共同利用委員会における審議の結果、平成12年度研究集会(特定)として3件を採択した。


(12S-1)都市住空間における地震災害のリスク評価とマネジメント
開催日時:平成13年2月24日 11時〜17時
開催場所:京都大学防災研究所
国際交流セミナー室
研究組織
研究代表者
 鈴木祥之(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者
 岡田憲夫(京都大学防災研究所 教授)
 林 康裕(京都大学防災研究所 助教授)
 清水康生(京都大学防災研究所 助手)
 神崎幸康(京都大学工学部)
 清水秀丸(京都大学工学研究科)
 李 書進(京都大学防災研究所)
 川瀬 博(九州大学大学院人間環境学研究科教授)
 田中辰明(お茶の水女子大学生活科学部 教授)
 中井正一(千葉大学工学部 教授)
 松本光平(明海大学不動産学部 教授)
 村上ひとみ(山口大学工学部 助教授)  吉田博昭(京都市都市計画局)
 木村榮一(NTT建築総合研究所 技術顧問)
 斎藤幸雄(日建設計構造設計室 室長)
 長能正武(竹中工務店技術研究所 主任研究員)
 斉藤 豊(清水建設プロジェクト本部)
 横田治彦(清水建設プロジェクト本部)
 中村 豊(清水建設技術研究所)
 武田正紀(清水建設技術研究所 主席研究員)
 村田明子(清水建設技術研究所 研究員
 小嶋伸仁(損害保険料率算定会 主任研究員)
 佐伯琢磨(損害保険料率算定会 主任)

(a)背景と目的
阪神・淡路大震災以後も鳥取県西部地震などを経験し、建築物、特に住宅と人命の安全性を確保し、地震後の再建を容易せしめるための社会的なシステムの重要性が認識されてきている。
本研究集会では、都市域の地震災害について、建築物群、特に住宅を対象に、建物、建物室内および居住者の観点から被害のリスク評価を行うとともに、建物および人命の安全性を確保するための住宅性能保証および検査制度の仕組みとこれらを補完する補償、保険制度の在り方を研究する。

(b)討議または発表テーマ 
1.都市空間のリスク評価とマネジメント
・震源域の強震動特性と構造物の破壊能
・地形と地盤の災害リスク〜土地利用に基づく評価
・京都市上京区における災害弱地域と高齢者の生活行動に関する研究
・震災とビジネスの課題に関する一考察 
2.建築物および室内空間のリスク評価
・建物の地震リスク評価
・地震後の病院の機能障害とリスク診断
・地震時における住宅室内危険度評価に関する研究
・地震時の家財被害予測に関する研究
3.建築物の性能と制度
・住宅の耐震性能評価と発生被害
・建築物の性能評価および検査制度
・住宅(木造)の性能保証制度・性能評価制度と中間検査制度について
・住宅品質法の意義と効果

(c)成果の概要
(1)都市空間のリスク評価とマネジメント
震源域の強震動特性と構造物の性能、特に破壊に至るまでの耐震性能との関係について、また土地利用の観点から地域の地形や地盤特性に基づく災害リスク評価を試み、特に京都市上京区を対象に高齢者の生活行動から災害に弱い地域の特性を明らかにしている。一方都市域の震災と企業等におけるリスクマネジメントの課題について考察を行った。
(2)建築物および室内空間のリスク評価
建物の地震災害リスクの評価法について、特に地震後の病院の機能障害とリスク診断法が検討された。また、地震時の建物室内被害について、特に建物特性に基づいて家財被害の予測、さらに人的被害との関連から住宅室内危険度評価の必要性が示された。
(3)建築物の性能と制度
住宅の耐震性能評価と発生被害との関連を調べるために調査シートの開発が試みられ、住宅の地震保険への適用について検討された。建築物の性能評価、特に住宅の環境性能について現状と対策法が示された。木造住宅の性能保証制度・性能評価制度と中間検査制度に関して行政からの報告がなされた。住宅の品質確保の促進等に関する法律の意義について述べられその効果と今後の展望が示された。
都市住民の安全性を向上し得る社会的な制度等の構築とそれらの普及を図るとともにさらなる制度等の発展が望まれる。

(d)成果の公表
 研究集会成果報告集「都市住空間における地震災害のリスク評価とマネジメント」を印刷し、関連研究者に配布するなど公表した。


(12S-2)21世紀の水防災研究を考える
-最近の水災害から見えてくること-
開催日時 平成12年12月6日(水)9時〜17時
開催場所 京都大学宇治キャンパス 木質ホール
研究組織 
研究代表者
 中川 一(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者及び研究協力者
 末次忠司(建設省土木研究所河川研究室 室長)
 玉井信行(東京大学大学院工学系研究科 教授)
 真野 明(東北大学大学院工学研究科災害制御研究センター 教授)
 福岡捷二(広島大学工学部地域環境工学講座 教授)
 今村文彦(東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター 教授)
 井上和也(京都大学防災研究所 教授)
 高橋 保(京都大学防災研究所 教授)
 寶 馨(京都大学防災研究所 教授)
 高山知司(京都大学防災研究所 教授)
 立川康人(京都大学防災研究所 助教授)
 戸田圭一(京都大学防災研究所 助教授)
 間瀬 肇(京都大学防災研究所 助教授)
 里深好文(京都大学防災研究所 助手)
 牛山素行(京都大学防災研究所 助手)
 吉岡 洋(京都大学防災研究所 助手)

(a)背景と目的<BR>  本研究集会は、水災害の防止・軽減に携わっている研究者・実務者等が一堂に会し、近年に国内外で発生した顕著な水災害の調査研究の成果を持ち寄り、ここから得られた新たな知見、問題点等を抽出することで、来るべき21世紀の水防災研究のあり方を探ろうという趣旨のもとで開催されたものである。

(b)討議または発表テーマ
 プログラムに示すように、研究集会は2部構成となっている。第1部では最近発生した水災害の事例について、災害調査の団長を務められた先生方やその方面の研究で中心となって活躍されておられる方々から話題提供して頂いた。その際、水害の実態などの事実に重点を置くのではなく、その災害で何がわかり、何が課題かなど、問題点・課題の抽出に重点を置いて話題提供いただいた。これを受けて第2部のラウンドディスカッションでは、第1部で抽出された問題点・課題をどう打開していくかをキーワードに沿って参加者から自由に意見を述べてもらい、来るべき21世紀の水防災がどうあるべきかを議論した。
この第2部では敢えてパネラーを設けない、ラウンドディスカッション形式とした。ややもすればパネルディスカッションではパネラーの主張などに時間をとってしまい、フロアーの意見を聞く時間が殆どとれない、ということがよく見受けられるが、ここでは、参加者全員がいわばパネラーになったつもりで、積極的に議論に参加していただいた。

プログラム
第1部:最近の事例から(話題提供)
「地下空間での水害―福岡水害から学ぶ―」 井上和也(京都大学防災研究所)
「都市化域での豪雨土砂災害―広島の土砂災害から学ぶ―」    福岡捷二(広島大学工学部)
「東北南部・北関東の水害―記録的豪雨にどう対応するのか―」           真野 明(東北大学大学院工学研究科)
「最近の高潮災害−台風9918号高潮が残したもの」高山知司(京都大学防災研究所)
「中国における最近の水害−日本の河川工学への刺激を考える−」玉井信行(東京大学大学院工学研究科)
「ベネズエラ水害−日本の災害との共通点−」  高橋 保(京都大学防災研究所)
「発展途上国における津波災害−低頻度災害に対する対応−」今村文彦(東北大学大学院工学研究科)
「過去の水害を教訓とした21世紀の水防災−水防災研究と施策への反映−」末次忠司(建設省土木研究所)
第2部:ラウンドディスカッション「21世紀の水防災を考える」モデレーター:寶 馨・戸田圭一
キーワード:
1.地下空間の安全性
2.都市化と土砂災害
3.高潮・津波研究と教育・行政のあり方
4.諸外国への防災研究・技術のトランスファー
5.防災研究成果の実際への活用
6.今後なすべき重要な研究課題と施策
7.環境と防災
8.今後の展望            など
方針:
1.モデレーターがキーワードに沿って司会進行を務め、会場からの意見を主に採り上げる。
2.とくにパネラーは設けず、参加者が思っていることを言える場にする。
3.色々な意見が出るほうが望ましく、考え方をまとめるのではなく、発散してもかまわないという思想。
4.重要な点については意識の共有化ができるとよい(考え方が同じでなくてもよい)

(c)成果の概要
第1部では最近の国内外で発生した水災害事例について国および大学からの報告があり、これを受けて第2部で活発な議論を行った。すなわち、第2部では、水害に強い街づくりのために下水を含めた流域全体の治水モデル構築の必要性、豪雨土砂災害の予測や避難予警報等の危機管理へのレーダー情報の有効利用、大学で開発した種々の数値計算プログラムの性能照査とこれを民間が容易に利用できるような解説の提供依頼など、種々の意見が交わされた。
議論は発散してもかまわない、まとめようとはしない、重要な点については意識の共有化ができるとよい、という思想をモットーにしていたので、極めて活発で有意義な議論がなされた。その場でキーワードや議論している内容をパワーポイントで表示するという電子黒板を設けたため、予想していたほど議論は発散せず、集中して議論することができた。今後の研究集会などでは是非ともこの方式を導入されることをお勧めする。  参加者は大学関係者が36人、公官庁関係者が12人、会社・コンサルタントが6人、学生が22人であった。学生の参加者が多かったのが特徴で、東京工大、九州大、立命館大など、防災研究所以外の学生が6人参加している。水防災研究に関心のある学生が多数参加してくれたことは大変喜ばしいことであったが、積極的に議論に参加することがなかったのは残念である。
 この研究集会を契機として、ここで議論したことの幾ばくかでもさらにきめ細かい議論へと発展し、実りある21世紀の水防災研究を進めるべく精進したい。

(d)成果の発表
 報告書として冊子体およびCD-ROMを作成し、参加者に配布するとともに、大学等に提出し、また、京都大学防災研究所のホームページにCD-ROMの内容をPDファイルで掲載している。


(12S-3)十津川災害111周年記念集会
-斜面災害発生場所予測に向けて-
開催日時 平成12年10月19-21日
開催場所 奈良教育大学奥吉野自然実習林(奈良県大塔村)および十津川村役場
研究組織 
研究代表者、所内担当者
 千木良雅弘(京都大学防災研究所 教授)
参加者数:38名

(a)背景と目的
十津川災害は、1889年8月の豪雨によるものであり、多くの大規模崩壊によって死者255人の大災害となった。この大災害の経験を今後の防災に生かすため、大規模崩壊発生場所の予測研究の現状についての討論を、災害後111年にあたる当地で行う。そして、研究者が実際の災害の状況を理解し、かつ災害を受ける側の要望を直接理解し、今後の研究に生かす。また、災害を経験した側の住人に普及講演を行い、現在の研究の現状を理解して今後の防災対策に生かしてもらうことを目的とする。

(b)討議または発表テーマ
・四万十帯の付加体地質-奈良県南部を例にして-
・十津川災害における大規模崩壊の地質特性
・降雨により群発した天然ダムの形成と決壊に関する研究 ? 十津川災害(1889)と有田川災害(1953)の比較検証 ?
・豪雨の予測、評価の現状と見通しについて
・近年の地域的雨量観測・情報伝達システムの変化と課題
・付加体分布域の大規模斜面崩壊の特徴と予測:中部日本美濃帯の例
・付加体に見られる重力性傾動構造発生の地質条件
・中央構造線活断層系川上断層の断層崖斜面から発生した大規模崩壊
・1999年7月北海道北部で発生した斜面崩壊の地質的背景
・"雲南的滑波風景"
・空から見る山体崩壊
・堆積岩山地の解体過程
・山体の重力変形の水文地形学的意義
・伊吹山の大規模崩壊とそのせき止め湖
・岩盤崩壊の発生場と発生周期について
・白鷹火山の山体崩壊時期に関する層位学的研究
・2000年神津島の崩壊について
・大起伏堆積岩山地における地中水、降雨流出特性、地形変化の相互作用
・露頭から採取したすべり面相当層のせん断試験結果とその解釈?長崎県平山地すべりのすべり面粘土せん断強度との対比?
・565mm/3日(平均月間雨量以上)の集中豪雨により発生したフィリピン・Antipolo市のCherry Hills地すべりについて
・移動体堆積物から推定される鹿児島県針原崩壊・土石流の運動機構
・ハザードマップとしての地すべり分布図
・GISによる道路斜面災害リスク評価と情報発信への取り組み
・災害履歴に基づく斜面崩壊のハザードマップ
・群発表層崩壊のハザードマップ作成に向けて-風化帯構造による広域評価-
・十津川村役場にて講演会
「十津川災害の概要」千木良雅弘(京都大学防災研究所)
「斜面災害とのつき合い方」岩松 暉(鹿児島大学)
「斜面災害と降雨-土壌水分」牧原康隆(気象庁)

(c)成果の概要
研究発表内容は、大きく次の5つにわけられる。1)十津川災害に関するもの(3件)、2)斜面災害発生の要因となる降雨に関するもの(2件)、3)崩壊と地質構造に関するもの(4件)、4)地形と崩壊の履歴に関するもの(6件)、5)崩壊の発生と運動機構に関するもの(4件)、6)リスク評価・ハザードマップに関するもの(4件)。特に、十津川災害に関する発表では、地質調査所の木村克己博士に特別講演をいただき、十津川災害が発生した場である白亜紀の四万十帯について、数多くの地質学的新知見について知識を共有することができた。特に四万十帯に関する見方はここ10年程度の間に大きく変化した。その他の講演では、目的を同じくし、異なる分野の研究者と密に議論をすることの効果が非常に大きいと感じられた。斜面災害発生場所予測の一つの到達点であるリスク評価・ハザードマップに関しては、目的と対象者に応じて異なるスケールや研究アプローチをとるべきであるなど、示唆に富む多くの意見が出された。
十津川村における普及講演は、1)十津川災害の概要、2)斜面災害との付き合いかた、3)斜面災害と降雨-土壌水分、と題して行った。村の防災関係者など約40名の出席を得て、野尻忠正十津川村村長からは、「かつての大災害をややもすると忘れ、あまり好ましくない土地利用もしばしばしてしまうような傾向もある。本講演を、自分達が災害と隣り合わせに住んでいることを再認識し、自らが身を守る気持ちを新たにするための契機にしたい」旨、述べられ、謝意が表された。
 以上のように、研究集会を実際の被災地で行い、研究者の討論と住民との意見交換を行った結果、情報交換を行うだけでなく、斜面災害発生場所予測のあり方や、今後の方向性について多くの示唆を得ることができた。

(d)成果の公表
 本研究集会の成果は、研究集会12S-3「十津川災害111周年記念集会-斜面災害発生場所予測に向けて-」として、京都大学防災研究所報告(164p)としてまとめられている。



平成13年度

(課題の選考概要)6件の応募を受けて、企画専門委員会では、防災研究所が主体的に開催すべきかどうか等の研究集会(特定)の主旨を確認し、個々の申請について審議したのち、評価を行い採択候補課題2件を選定した。共同利用委員会における審議の結果、平成13年度研究集会(特定)として2件を採択した。


(13S-1)地震・火山噴火活動の相関とトリガリング
開催日時:平成13年7月17日〜18日
開催場所:京都大学化学研究所共同研究棟大セミナー室
研究組織
研究代表者、所内担当者
 橋本 学(京都大学防災研究所 教授)

(a)背景と目的
 2000年の伊豆諸島での活動に見られるような地震と地震、地震と火山噴火、さらには他の地学現象との相関について、その物理的な機構を明らかにするため、観測事例の報告と静的あるいは動的な力学モデルによる理論的な研究成果をつきあわせ、議論する。これに基づき、地震・火山噴火相互の間、あるいは他の地学現象との間に見られる相関について観測事例を取りまとめ、さらにこれに最新の力学的な研究に基づいた解釈を加えるとともに、将来の地震発生・火山噴火予測の基礎を与えることを目指す。

(b)発表テーマ
(1)群発地震活動、地震活動の移動現象
(2)離れた地震・火山噴火の連動現象
(3)連動を伴わない活動
(4)静的応力変化による解釈と問題点
(5)動的応力変化による解釈と問題点
(6)シミュレーションと展望等

(c)成果の概要
平成13年7月17〜18日に、地震・火山噴火活動の相関や誘発現象について研究をしている68名(参加機関は27)に上る研究者の参加を得、標記研究集会を開催した。2日間に30件の発表と2時間に及ぶパネルディスカッションを実施するなど、盛会のうちに終了した。
 1日目は、(1)群発地震活動、地震活動の移動現象、(2)離れた地震・火山噴火の連動現象、(3)連動を伴わない活動という3つのテーマについて、これまでの現象のレビューがなされた。(1)では、地震活動の時空間変化の原因として、主にマグマや流体の移動との関連性が議論された。(2)では、広域的な地震・火山噴火活動の連動性を示す事例が多く紹介された。この中で、東北日本と九州で見られるプレート境界地震と内陸の地震・火山噴火活動の同期のパターンが、西南日本の場合と異なることが判明したことは、本研究集会の重要な成果の一つである。一方、(3)において、周囲と独立した振る舞いをしていると思われる観測例が示された。
 2日目は、(1)静的応力変化による解釈と問題点、(2)動的応力変化による解釈と問題点、(3)シミュレーションと展望等についての最新の研究発表があった。(1)では、マグマ貫入と地震発生に効果的な応力成分の変化、すべりと状態に依存した摩擦構成則の導入による誘発地震の発生条件、地球潮汐による周期的な応力変化による誘発、テクトニック応力の蓄積率の影響等が話題となった。(2)では、遠地地震による誘発に関する定量的な条件、時間遅れのメカニズム、破壊の乗り移りによる地震の成長等が議論された。(3)では、単純な力学的相互作用から粘弾性媒質による応力変化を考慮した相互作用にいたるまで、様々な相互作用を考慮した地殻変動や地震活動のシミュレーションが紹介された。  これらの報告を受けて、パネルディスカッションでは、(1)相関を確かめるための調査・観測、(2)考えられる相関のメカニズム、(3)相関現象をどう予測に役立てるか、をテーマに議論した。(1)については、特に火山噴火活動と地震活動との関係を調べる場合、力源推定の不確かさの問題が指摘され、SARとGPSなどを組み合わせた地殻変動観測データの活用やモデルの検討の必要性が認識された。また、広域の地震活動の相関については、地震活動が時空間的にクラスタをなしているために検定が難しく、地震活動についての適当な統計モデルの必要性が指摘された。(2)については、すべりと状態に依存する摩擦構成則に基づくモデリングの結果では、小さい応力変化でも地震活動度が大きく変化することが予想され、微小地震活動度変化を調べることにより応力状態の変化を定量的にモニターできる可能性が指摘された。動的な応力変化による誘発のメカニズムについては、時間遅れについての議論があり、地殻内流体の関与の可能性が指摘された。(3)は、火山についてはtime to failureモデルの検討、地震については非弾性変形の評価や広域地震活動の同期性のメカニズム解明、活断層評価における断層間相互作用の考慮、kinematicなシミュレーションをdynamicなシミュレーションにどう発展させるかといった点について議論があった。
地震活動等の相関にテーマを絞った研究はアメリカで特に盛んで、いろんな研究集会も開かれている。日本では地震活動はもちろん火山噴火活動についても観測事例が数多くあり、今後これらのメカニズム解明も含めて日本独自の研究を発展させていくべきであるとの共通認識を得た。

(d)成果の公表
発表論文とパネルディスカッションの収録をまとめて、京都大学防災研究所研究集会(特定)報告書「地震・火山噴火活動の相関とトリガリング」(A4版211ページ)を刊行した。さらに、本研究集会で発表された論文を中心に地学雑誌特集「地震・火山噴火活動の相関とトリガリング」(Vol.111)と企画し、平成14年4月に発表した。


(13S-2)都市地域における防災・減災のための水循環システムに関する研究
開催日時:平成13年12月8日10:00〜18:20
開催場所 京都大学防災研究所
研究組織 
研究代表者及び所内担当者
 萩原良巳(京都大学防災研究所 教授)
研究分担者及び協力者 
 秋山智広(開R東日本情報システムシステム開発部鉄道システム総括)
 稲場紀久雄(大阪経済大学)
 岡田憲夫(京都大学防災研究所 教授)
 神谷大介(京都大学大学院工学研究科土木工学専攻 D2)
 神崎幸康(京都大学大学院工学研究科土木工学専攻 M1)
 北田敏廣(豊橋技術科学大学第8工学系)
 酒井 彰(流通科学大学商学部サービス産業学科)
 坂本麻衣子(京都大学大学院工学研究科土木工学専攻 M2)
 佐藤祐一(京都大学大学院工学研究科環境地球工学専攻 M1)
 清水 丞(鞄水コン建築事業部第一部)
 清水康生(京都大学防災研究所 助手)
 杉本博之(滋賀県)
 高橋邦夫(鞄水コン建築事業部第一部)
 土井純平(京都市水道局)
 友杉邦雄(京都大学防災研究所 助教授)
 中瀬有祐(兜恁囃イ査設計 防災システム部)
 中村彰吾(鞄水コン建築事業部第一部)
 西村和司(京都大学大学院工学研究科土木工学専攻 M1)
 萩原清子(東京都立大学大学院都市科学研究科)
 弘元晋一(京都市下水道局施設部)
 堀真佐司(厚生労働省(大阪府水道部))
 松下 眞(神戸市水道局技術部計画課)
 水田哲生(立命館大学政策科学研究科)
 森 正幸(鞄水コン 大阪支所水道事業部技術第一部)
 山村尊房(国連大学高等研究所)
 劉 樹坤(中国水利水電科学研究院 京都大学防災研究所)
 渡辺晴彦(鞄水コン環境事業部技術第三部)

(a)背景と目的
震災リスク・環境汚染リスク・渇水リスク・浸水リスク・生態リスク・健康リスクなどのリスクを対象とし、都市域の防災・減災を目的とする新たな水循環のあり方を河川、水道及び下水道を総合的に考慮して研究する。

(b)討議または発表テーマ
・環境リスクの評価 -水環境について-
・環境リスクの評価 -都市用水について- 
・飲料水のヒ素汚染問題 -バングラデシュの例を中心として- 
・大規模水資源開発と環境のコンフリクト過程
・都市水供給リスクマネジメントにおける情報 システム
・都市域水循環システムの事例研究
・中国流域水循環システムの事例
・大震災と琵琶湖の水質危機
・流域水循環システムと震災リスク
・震災リスクと流域水循環システムの被害
・下水処理水の利用による震災リスクの軽減と
水辺創成
・水辺計画と住民参加

(c)成果の概要
 本研究集会では、話題が多岐にわたり一見ばらばらのように見えるのは本研究集会のテーマが物理的なものを含めて自然科学、社会科学そして人文科学に関係するためである。防災科学が、従来の要素を基礎とする科学からシステムを基礎とする科学へ変身する必要性を提唱したが、システム化ということではまだ緒に就いたところであり、今回のような横断的な議論の場を継続的に持つことが重要であると考える。

(d)成果の公表 
 本研究集会の成果については、「研究集会13S-2 都市地域における防災・減災のための水循環システムに関する研究」成果報告書(全130ページ)としてとりまとめている。

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