インド西部地震の断層探し


 大地震は大断層の上で起きる――。2001年1月26日、インド、グジャラート州で非常に大きい浅い地震 (Ms 7.9) が起きたとき、地震や地質の研究者たちは地表に相当な破壊の跡が断層に沿って表れているだろうと考えた。最近の台湾やトルコの地震では1〜8メートルもの地表のずれが断層に沿って観察されたが、インド地震の最初のマグニチュードはこれらの地震よりも大きかったからである。インド西部地震はグジャラート西部地域を暴力的に襲い、2万人以上の死者と、ブージおよび周辺の村に大被害をもたらした(DPRI Newsletter No. 20)。
1.2001年インド西部地震発生地点周辺の地図。
▲はこの研究のために携帯用地震計が設置された場所

 大地震を引き起こした断層の規模、位置、方向を知ることはいくつかの理由で重要である。たとえば、その地域でいつまた地震が起きるかを考えるためには、どの断層が地震を引き起こしたかを正確に知らなければならない。また、断層からどのぐらい離れているかわからなければ地震の被害程度を推測することもできない。
 世界中の地質学者たちは断層探しのためにインドに集結した。空中査察を行ったり、地上を慎重に踏査したりしたが、はっきりとした断層の形跡はなかなか見つからなかった。地面が隆起していた場所があって断層かと思われたが(写真参照)、これはただ表面の土が横に動いて盛り上がっただけだとあとでわかった。地表に断層の形跡がないので、地震学者は余震の観測による断層探しに走った。余震は普通、大きな地震でずれた断層の上で起きるから、余震の位置を正確に出せば、問題の断層の位置、規模、方向がわかるのである。これには断層を三次元的に捉えることができるという利点もある。ずれを地質学的に観察するだけでは断層が地球表面のどこを破壊したかということしかわからないが、余震の位置がわかれば断層の深さもわかるのである。
 我々のチーム(佐藤魂夫=弘前大学、James Mori=防災研究所、根岸弘明=防災科学技術研究所)は余震の位置から断層を探そうと、2月25日、携帯用地震計を詰めたたくさんの箱を持ってインドへ出発した。文部科学省平成12年度特別研究促進費研究「2001年インド西部大地震の総合的調査研究(研究代表者:佐藤魂夫教授=弘前大学)」の調査団のひとつ、余震観測班である。我々はIndian Institute of Technology およびWadia Institute of Himalayan Geologyの研究者たちと合流し、翌26日、被災地域に到着した。地質学の地図によるとこの地域にはKhachchh Mainland Fault などいくつかの断層が記されており、Kachchh は地震原因の有力候補と思われた。しかし、グジャラートでは地震を起こした断層の位置に関する情報はほとんどなかった。唯一、信用できたのは震源の位置だけ(これも世界中のデータから割り出したものだから20〜30キロメートルの誤差はあった)。あとは、断層はおそらく、ほぼ東西方向にのびているだろうという一般的概念しかなかった。断層の方向が東西だという考えは遠地地震から得られたメカニズム解から来たもので、これはこの地震が東西方向の逆断層の上で起きたことを示していた。また地質学的に見ても、この地域は東西方向の地勢に特徴がある。

2.Chobari 付近で、あたかも断層のずれのように見えたところ

 この程度の乏しい知識で観測点を決めるという暴挙に出たのである。我々は携帯用地震計を狭い地域に配置したいと思っていた。そうすれば震源の位置と深さをかなり正確に計算できるからである。しかし、どこで余震が起きているかさえわからないのだから計器をどこに持っていくか、どうにも決めかねる。情報不足もここまでくると、この計画に対する疑念さえ湧き起こってきた。もっとも、これは余震観測に対する意欲をかきたてる状況といえなくもなかった。我々が余震の分布に関して得るデータは、ほとんどどんなものでも、この地震に関して新しい情報を付け加えることになるのである。結局、我々は8カ所の観測点を震源の東の比較的小さな地域に設定した。この決定はあまり科学的でない理由による――道路が通じているとか、どうも東側の方に余震が多いらしいという噂など‥‥。
 地震計の設置には2日かかり、2月28日から余震の記録が開始された。その後、1週間ほど観測を続けて、我々は数千の地震の記録を得ることができた。あとでわかったことだが、我々は幸運だった。観測点は余震がたくさん発生した場所に近かったのである。

 収集したデータから、我々は800ほどの余震の正確な位置を計算することができた。この結果、インド西部地震に関していくつかの重要な点がわかってきた。
3.Adhoi 付近で地震計を設置しているところ
1. 断層面はほかの同規模の地震に比べて小さい(ほぼ40km x 40km)。最も被害が大きかったブージの東の地域は断層の真上に位置している。ブージにも相当な被害があったが、ここは断層から約40キロメートル離れている。
2. 地震を引き起こした断層は地下35〜10キロの深さにあり、地表には達していない。地表で断層のずれが観察されなかったのはこのためである。
3. 断層面は南側へ約45度傾斜している。これを地表へ延長した場合、地図に記されたKhachchh Mainland Fault の北東に出ることになり、この地域でこれまでに知られていたどの断層とも一致しない。

 現在、地震の災害予測の研究が日本やアメリカをはじめ、世界中で行われている。これらの研究は主に地表に表れた大きな活断層による地震の歴史を調べることを基本にしている。しかしインド西部大地震はひとつの重要な教訓を与えた。地表に大きな断層を示唆する形跡が何もない場所でも大被害をもたらす大地震は起きるということである。
4.被災したBhuj の寺院5.この研究の結果わかった余震の分布。
右図の線は、南側に傾斜している断層面の方向を示している

James Mori