華清池の地すべり災害予測

 過去3年間に実施した研究結果の総括として、7月26日−8月5日に防災研究所で開催したユネスコと地盤工学関連の3国際学会合同の世界地すべり目録委員会の「高速地すべり運動予測委員会」によるワークショップの中で「華清池地すべり災害予測」の特別セッションを開催した。10月4日-18日に西安市旅費全額負担の招轄研究者5名を含む15名が、中国側の研究者とともに伸縮計(5台)と孔内傾斜計(21孔)の観測、GPS測量(9点)、TotalStation測量(20点)、地形・地質・地下水調査、岩石サンプリング及び来年度からの地震観測のための予備調査を行った。この調査期間中に2日間、西安理工大学、臨憧地すべり観測所において日中の共同研究者による15題の研究発表を含む合同研究会を実施した。また、華清池と同じ片麻岩の岩盤内で発生し地すべり土塊による自然ダムが形成されている西安市近郊の翠華山地すべりとレス地帯の古劉地すべりの現地調査を実施した。さらに11月26日-27日に文部省国際学術課の吉崎誠係長を含む日本側3名、12月6日-8日に日本側の2名で追加調査を実施した。現在、中国では各種の移動観測を継続的に実施するとともに、来年度に伸縮計を設置するための14本の支柱(地上7-IOm)を斜面に埋設する作業を進めている。日本では採取したサンプルの高圧二軸圧縮試験及び高圧リングせん断試験を行いつつある。

 中国西安市の郊外にある華清池は唐の時代に玄宗皇帝と楊貴妃が暮らした温泉のある離宮として有名であり、現在年間300万人の観光客が世界各地から訪れている。この官殿は大規模な断層崖の直下にあり、断層崖を借景とし断層から湧き出る温泉を利用して作られている。現在、この斜面では陥没、亀裂、小規模な崩壊など種々の地表変動が表れており地すべりの発生が懸念されている。

上左:華清池内から地すべり斜面を見たもの。
上右:地すべり斜面と華清池の平面図
(メッシュの部分は、現在その範囲の予測のための研究を実施している推定地すべりブロックと移動範囲の模式図)。
下左:華清池宮殿敷地内での飽和沖積土層からのサンプリング状況。
下右:斜面内に設置したGPS測量杭と測量状況


 1987年に開催された日中合同地すべり現地討論会において日中双方の地すべり研究者70人が合同視察し、表れている地表変動現象が「表土層のクリープ」か「大規模地すペッの前兆現象」かについて意見が分かれた。前者は斜面の岩盤が先カツブリア紀の硬い片麻岩であること及び唐時代から落ちないで残ってきた斜面であることが主な理由であり、後者は硬岩ではあるが断層崖であり破砕が進行していること及び進行している斜面のクリープが斜面の岩盤の強度を徐々に低下させているはずなので、唐時代から安定であったことは今後の安定性の理由にならないことが主な理由である。

 その後、1989年,1990年と人物交流と情報交換を続け、1991年から京都大学防災研究所を中心とする日本グループと西安市地震局を中心とする中国グループで本格的な共同研究が開始された。また、この研究開始に関連して中国国家計画委員会、日本学術振興会その他の予算も認められ、毎年、日本から6-15名の地すべり研究者が現地調査・観測を行い、西安市では臨憧地すべり観測所の13名の専任スタッフと3名の技術顧問、2名の非常勤測量技術者などが観測・調査を実施している。そしてこれまでに実施した2本の調査トンネル、65本のボーリング、10孔の調査井戸による地質調査、及び本年度の「C2グループ活動状況」で紹介した各種の移動観測により、レス(黄土)の堆積上層内の比較的浅いすべリだけでなく、現在片麻岩のなかにすべり面が発達しつつあり、大規模岩盤地すべリが発生し得ることがかなり明確になってきた。また、この大岩盤地すべりが発生すれば、華清池の宮殿だけでなく、人口70万人の臨憧県中心街が破壊される可能性が極めて高いことが推定されている。そして地すべり発生規模、発生条件、運動範囲の正確な予測とこの共同研究を通じて大規模高速地すべり発生・運動予測法を確立するための研究が進められている。

 この共同研究の内容を紹介するものとしては、1)1994年11月に西安市電視台が製作した「為了華清池」の約20分問の日本語ナレーション付きビデオ、2)ユネスコと地盤工学関連の3国際学会合同の「Working Group for Prediction of RapidLandslide Motion」による「Prediction of Landslides in Lishan,China」(251頁)がある。希望者は京都大学防災研究所・地すべり部門・佐々恭二までご連絡下さい。